そのとき近《ちか》くで、ふと足音が聞えたと思ったら、
「あっ、――」
 と、丁坊がさけぶひまもないほどすばやく、彼の頭の上から、なにか大きな布《きれ》がばさりと被《かぶ》さった。
「ううー」
 と、呻《うな》ってみたが、もうだめである。何者とも知らず、二三人の大人があつまってきて、丁坊のからだをかるがると抱《だ》き上げた。そして丁坊をどこかへ連れてゆく。
 そのうち丁坊は、なんだかいいにおいをかいでいると思っているうちに、たいへんねむくなった。
 どこへ連れられていったのやら、またどのくらいたったのかはしらないが、おそらくずいぶん長いことたった後《あと》なのであろうが、丁坊は、はっと眼がさめた。そのとき彼が一番はじめに気がついたのは、ごうごうという洪水《こうずい》が流れるような大きな音であった。
 なんの音だろう。
 と、思う間もなく、身体がすーっと下に落ちてゆく。
「はてな、――」
 と思うまもなく身体は停った。目を明いてみると、小さい西洋風の寝台に寝ているではないか。部屋は小さい。あたりを見ると、誰もいない。
「ここはどこだろう」
 そう思った彼は、寝台のそばに小さい丸窓のある
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