た。
「丁ちゃん。兄ちゃんは、きょう怪我《けが》をしたから、配達ができないのよ」
「えっ、兄ちゃんが怪我をしたって。どうして怪我をしたの、そしてどんな怪我なんだい」
 お母さんもとんで出てきて、けなげなユリ子の手を窓ごしに握って、涙をこぼした。
「――さっき、兄ちゃんが沢山の夕刊を持って、この向うの雑木林《ぞうきばやし》をぬけようとしていると、そのとき、あっという間もなく、頭の上からなんか大きな硬いものが落ちてきて、兄ちゃんの左脚《ひだりあし》にあたったのよ。それで左脚がひきさいたように裂《さ》けて、歩けなくなったの。折よく傍《そば》を自転車にのった酒屋さんが通りかかったから、うちへ知らせてもらったんだけれど、ずいぶんびっくりしたわ。そんなわけで、あたしが兄さんの代りに配達しているのよ。でも夕刊が遅れるといけないでしょう」
 ユリ子は、けなげにもそういった。丁坊はこのユリちゃんが大好きである。実に、はきはきしている子だったから。
「その大きい硬いものって、何だったの」
「それが分らないのよ。土中《どちゅう》に深く入っていて、中々掘りだせないんですって」
 ユリ子は悲しそうに首をたれた。
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