配達をして、くらしの足《た》しにと、わずかながらもお金を稼いでいる清君は、丁坊のように活発ではないが、おとなしい感心な少年だった。
それから三日ばかり経《た》った日の夜のこと、丁坊はその日も休みで家にいたが、なんとなく、そわそわしていた。
「どうしたんだろう。今日は清ちゃんの夕刊配達が、ばかに遅いけれど、どうかしたのじゃないかしら」
仲よしの清君の身の上をおもって、丁坊はさすがに心配のあまり、好きな模型づくりもやめてしまった。
時計はもう七時だ。
するとピピーと口笛の音が、表口の方にした。
「ああ、清ちゃんが来た」
丁坊は、そのままとび上るようにして、自分の部屋の窓をあけた。
「おーい。清ちゃん。早くこっちへおいでよ。ばかに今日は遅いじゃないか」
夕刊をばさっと投げいれる音がした。
それからばたばたと、窓下へかけてくる小さい足音がした。赤いベレー帽がみえた。その下で白い顔が笑っている。
「おや、――」
と、丁坊は叫んだ。
「おや、ユリちゃんじゃないか。兄さんはどうしたの」
意外にも、新聞の入った大きな袋を肩からかけて、窓下に立ったのは清君ではなくて、その妹のユリ子だっ
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