れはそうだけれど、あの辺だって、夏になると、すこしは氷が溶けるのだよ、氷山なんか割れるしね」
「そうだ。――」と清君は首をひねって、
「いまの大戦争は北極を中心として、シベリヤ、アラスカ、カムチャツカなどという、日本の樺太《からふと》や北海道よりもずっと北の方へひろがるだろうといってたぜ」
「どうしてそんなところに戦争が起るんだい」
と、丁坊がたずねると、清君は新聞記者気どりで、
「そりゃ分っているよ。北の方で、世界の国々が、自分のために力をひろげておかねばならぬと喧嘩《けんか》をはじめるんだとさ。ソ連、米国、英国なんて国がさわいでいるんだよ。日本も呑気《のんき》に見ていられないだろうといっていた」
「ふーむ、日本もね」
そういっているところへ、丁坊のお母さまが飴玉《あめだま》を紙につつんで、清君にあげましょうともってきた。
「清ちゃんはえらいのねえ。新聞配達をして小さい弟や妹を養《やしな》っているんだから……」
清君はあたまを下げた。
「まだお父さんもお母さんも、御病気がよくならないのかい」
「ええ、まだなんです」
変な怪我《けが》
一家のために、けなげにも新聞
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