らせてしまったから。いくら、当人の丁坊が知らなかったこととはいいながら、全くそのはずかしさは穴の中にかくれたいくらいのものだった。
「丁坊君、悲観せんでもいい。なあに、どっちになったって、今の境遇では、大したちがいはないよ」
 と大月大佐は丁坊をなぐさめ、そして他をふりかえって、
「おい誰か。丁坊君に新しい防寒服を大急ぎで作ってやれよ」
 といえば、待っていましたとばかり、隊員が三四人声を合わせて承知の返事をした。


   怪《あや》しき爆音《ばくおん》


 丁坊はすっかり隊員のなかの人気者となった。隊長のお声がかりで、新しい防寒服はすぐ出来たし、その上、毛皮がそとについている防寒帽をつくってもらうやら、靴もエスキモーにならって外を魚の皮でつくり、内にはやはり毛皮を張ってあるものを貰うようにしてたいへんな可愛がられようであった。
「ああ嬉しいなあ。僕、まるで日本に帰ったような気がする」
 そういって丁坊が跳《は》ねまわれば、隊員もそれを見てにこにこ顔であった。
 しかしここは氷上の避難住居である。船もなければ、橇《そり》もない。到底《とうてい》日本へはかえれまい。丁坊はそれをはっき
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