り知らないのだろうと、蔭で涙ながして気の毒がる隊員もあった。
 隊長大月大佐は、丁坊の進言によって、空魔艦の根拠地へむけて遠征する計画をたてはじめた。
 幸いに、食料は三十日間だけあり、武器も弾丸の数にして五千発ばかりあったので、これなら一戦やれると見込がついた。
 隊員のなかから、十五名を選んで遠征隊員として、のこり五名をここにのこして置いて、予備隊とする。
 その一方、沈みゆく若鷹丸から持ち出した電波の無線機械を至急修理して、内地と連絡できるようにせよという命令が出て、無線班は食事も忘れて、しきりに器械をいじっていた。
「どうだ、松川学士《まつかわがくし》。遠征隊は何日《いつ》出発できるだろうか」
 と、大月大佐は、若い副隊長の松川彦太郎学士にたずねた。
「今のところ、どんなに急いでも、明日《あす》の朝になりますね」
「そうか。やっつけるなら、早い方がいい、急いでくれ」
「承知しました。急ぎましょう」
 隊員は、さらに急がしくなった。
 いつの間に陽《ひ》が傾いたのか、よくわからなかったが、既にして夕刻となり、あたりはもううすぐらくなりかけた。
 空の遠くには、まだ極光が現れ、その
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