う話声がきこえてきた。
「笑い熊」は緊張して、機械の目盛盤《めもりばん》をしきりに合わせた。
“隊長さん。なぜあなたがたは、こんな北極まで探険にこられたのですか。その目的はどんなことなのですか”
 そういう声は、紛《まぎ》れもなく丁坊の声であった。なぜ丁坊の声がきこえてくるのか。
“お前が日本人なら聞かしてもいいことなんだが――”
 という声は、たしかに隊長大月大佐の声であった。「笑い熊」はマスクの中《なか》でにやりと笑って、
「いよいよ喋《しゃべ》りだしたぞ。あっはっはっ、探険隊の奴らも小伜《こせがれ》も、まさかあの小伜の身体を包んだゴム袋の中に、無線電話機が隠してあるとは気がつかなかろう。見ていたまえ。いまに俺たちの知りたい探険隊の秘密の目的やなにかも、どんどん向うで喋ってくれるぞ。そうすればわが空魔艦の活動も、たいへん楽になる。うふふふ」
 驚くべきことを、「笑い熊」は云った。丁坊の身体を包《つつ》んだゴム袋の中に、無線電話機が入っているというのだ。もちろん丁坊も知らなければ、隊長大月大佐もこれを知らない。そしてこれが恐るべき空魔艦の一味に盗み聞かれるとは知らず、大佐はだんだんと
前へ 次へ
全68ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング