していられないのだ」
と云って溜息《ためいき》をついた。
丁坊が日本人であることは、丁坊自身ばかりではなく、読者もよく知っている筈だ。しかし読者がもし丁坊のような場合にであったとしたら、どうして見ずしらずの他人の前に出て、自分は日本人だという証明をなさるであろうか。なんでもないように見えて、それはなかなかむずかしいことだ。
もう一つ、空魔艦がなぜ丁坊を下ろしたかという疑問は、これは空魔艦の幹部にきいてみないと分らない。
しかしそれは、いま空魔艦のなかでどんな光景がひろげられているかを説明すれば、容易にわかることだった。
ではその方へ、物語を移してみよう。
ここは例の氷庫《こおりぐら》の前の、空魔艦の根拠地であった。
丁坊をとらえた方の空魔艦「足の骨」の機長室では「笑い熊」と称《よ》ばれる機長が、マスクをしたまま一つの機械をいじっている。そのまわりには、六七人の幹部のほかに、中国人チンセイも加わって機械を注視している。
「こっちの機械はよく働いているんだから、もうそろそろ聞えてきてもいい筈だ」
と「笑い熊」はいった。
暫《しばら》くすると、その機械から、ぼそぼそと語りあ
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