に浮いてしまって、さびついた赤い船底までがにょっきり上にあがってきた。それと反対に、船尾の方はまったく氷の下に隠れてしまった。いまや若鷹丸は沈没の直前にあった。
「あ、危い。――もう駄目だ。皆、下りろ、早く!」
 大月大佐は舷《ふなばた》につかまったまま、船内にむかって怒鳴《どな》った。


   沈没


「おいどうした。皆、早く甲板へ駈《か》けあがれ。そして氷の上にとびおりろ。おい、どうしたんだ」
 無電室へとびこんだ隊員たちは、だれ一人として姿《すがた》をあらわさなかった。ただ、よいしょよいしょという掛け声だけがする。
 隊員たちは、いまや決死の覚悟で無電装置を搬《はこ》びだしているところらしい。
「これはいけない。皆逃げおくれてしまうぞ」
 大月大佐は舷《ふなばた》をはなれて、無電室の方へ匍《は》いよった。そのときは氷原がもうわずかに目の下一メートルばかりに見えた。
「おい皆、早く逃げろ。無電装置よりは人命の方が大事だぞ」
 その声が無電装置をうごかすのに夢中の隊員の耳にやっと通じたものか、おうという返事があった。
「おい、最後の努力だ。さあ力を合わせて、そら、よいしょ」
 ど
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