どどどっという足音とともに、嬉しや無電室から大勢の姿があらわれた。彼等が周囲からささえているのは、最後まで望みを捨てなかった無電装置だ。
彼等は室外に出ると、只ならぬあたりの光景に気づいて、一せいにうむと呻《うな》った。いつも見なれてきた平らな甲板は、今は立て板《いた》のように傾いている。またずっと下にあった氷原が、手にふれんばかりの近さに盛りあがっている。
「おい、もう一秒も余すところがないぞ。思いきって氷上にとびおりろ」
と大月大佐は必死になって怒鳴った。
「わっ、――」
一同は無電装置を舷から外に押しだした。そいつはうまく氷の上にひっかかった。その代り隊員の姿は氷の下に隠れた。
「おい、なにをぐずぐずしているんだ。船首の方へ匍いあがれ。そして氷にとびつくんだ」
大佐は手すりにぶらさがって叫んだ。
もういけない。めりめりという船腹をくだく物凄い音響だ。これに入り乱れて、氷片を交えた北極の黒い海水が、ごぼごぼと下から泡《あわ》をふいて湧《わ》きあがる。
逃げそこねた隊員は、最後の力をふりだして、滑《すべ》る甲板をよじのぼる。
黒影《こくえい》が一つ、また一つ、氷上《ひょ
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