ましていた。
「食糧と水とは全部だしました。武器や観測用具も殆んどみな出ました。こんどはエンジンを出したいのですが、どうも間にあいません」
 と隊員が大声で叫んだ。
「いや、どう無理をしてもエンジンは出さなきゃいけない。無電室に小さいのがあったじゃないか」
「あれは前から壊れているのです」
「壊れている? 壊れていても、エンジンを一つも出さないよりはましだ。出して置いた方がいい。それから椅子や卓上《テーブル》や毛布など隊員の生活に必要なものは一つのこらず出してくれ」
「ええ、そいつはもうすっかり出してあります。船の向う側へ抛《ほう》りだしてあるんです」
「無電装置は出したろうな」
「ええ、短波式のを一組、いま出しにかかっているところですが、この分じゃ間に合うかなあ」
「間に合うかなあと心配ばかりしてはいけない。無電装置はぜひ入用だ。いいからすぐ全員をその方に向けて、なんとしても取出すんだ」
「はい、承知しました」
 船員は呼笛《よびこ》につれて、傾いた甲板《かんぱん》の上を猿《ましら》のように伝わって走ってゆく。
 そのうちに、ああっという叫び声が聞えた。見よ、若鷹丸の船首はすっかり宙
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