そういううちにも、船は一センチ、また二センチと、しだいに気味わるく下ってゆく。はたしてこれも空魔艦のせいであろうか。空魔艦はどんなおそるべき仕掛をしていったのだろうか。
最後は迫《せま》る
若鷹丸は、刻一刻と氷の下にめりこんでいった。
大月大佐は隊員を指揮して、船内にあった大切な器具や残り少くない食糧を氷原にはこばせた。船はだんだん傾きはじめた。船首がたかく上にもちあがって、船尾はもう氷とすれすれになった。いままで真直に立っていた檣《マスト》が、今は斜に傾いているのもまことに哀れな姿であった。
丁坊少年は、例のとおり達磨《だるま》さんのように手も足も厚い蒲団《ふとん》のようなものにくるまれたまま氷上に置かれて、沈みゆく難破船をじっとみつめていた。久方《ひさかた》ぶりで懐しい日本人に会えた悦《よろこ》びも、この沈没さわぎで煙のように消えてしまった。どうしてこうもよくないことが丁坊の行くところへ重なってくるのだろう。
「おい皆、もっと元気《げんき》を出して頑張れ。船が沈んでしまったら、それこそ何にも取りだせないぞ」
と大月大佐は、まだ船の上に立って、しきりに隊員をはげ
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