が泣きじゃくっている間に、手を使って信号がとりかわされた。
「おお、大佐は、少年を船へつれてこいていわれる。ただしそのまま担《かつ》いでこいということだ」
「それ見ろ。大佐も俺も同感らしいじゃないか」
 と一木はにやりと笑って、丁坊のところへ近づいた。
「こら、お前はこれから探険船|若鷹丸《わかたかまる》へつれてゆかれる。おとなしくしていなきゃいけないぞ」
 丁坊は、黙ってうなずいた。彼の眼はいきいきと輝きを加えた。
 大勢の肩にかつがれて、やがて丁坊は難破した探険船若鷹丸についた。そして階段を下りてやがて一つの部屋につれこまれた。
 そこは事務室のようであった。大月大佐であろうか、正面にやはり毛皮を頭からすっぽりと被《かぶ》った長い髭《ひげ》の壮漢《そうかん》が、どっかと粗末な椅子に腰をかけていた。
「こっちへ連れてこい」
 大佐は一つの椅子をさした。
 丁坊はその上に、ちょこなんと載せられて、どんな問答が始まるのであろうか。気の毒にもこの難破船はもうストーブにくべる石炭や薪《まき》もなくなったと見えて、室内に氷が張っていたり天井《てんじょう》から氷柱《つらら》が下っていたりする。す
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