な顔をしてその身体をひきもどした。
「おい一木《いちき》。はやまったことをしてはならんぞ。近づいちゃいかんというのだ」
 丁坊は、はっとした。
「なんだ二村《にむら》、いいじゃないか。これは日本少年だ。声をかけてやるのが当り前だ」
「いや、いけない。お前はこの子供が、空魔艦の者だということを忘れているのだろう。かるはずみなことをして、大月大佐《おおつきたいさ》に叱られたら、どうするつもりだ」
「そうだったね、二村」
 と、一木と呼ばれた親切な人も、手をひっこめそうになった。
 丁坊は思わずはらはらと涙をこぼした。せっかく日本人にあいながら自分が空魔艦から下りてきたということのために、たいへんいやがられ、そして恐れられているのだった。やっぱり自分はひとりぽっちなのか。


   大月大佐


「おお、本船が信号をしているぞ」
 一人がうしろをふりかえって叫んだ。
「どうしたのか、わけをしらせろって、大月大佐の御催促《ごさいそく》だ」
 すると一木が、
「じゃ丁度《ちょうど》いいじゃないか。わけを報告してこの日本少年をどうしましょうと聞けやい」
「そうだったね。うむ、聞いてみよう」
 丁坊
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