た。そして丁坊のそばによって、気の毒そうな声でいった。
「丁坊、いまから試験が始まるそうだ。これからお前は、地上におろされるのだ。そしてそれから先、どんな目に遭おうとも、黙って我慢していて、後にわれわれが迎えに行くまで待っているのだ、いいか」
 地上におろされる?
 どういう風におろされるのだ。彼の身体は、いま針金でぐるぐる巻《ま》きにされている。なんだか一向わからない。
「笑い熊」が、またさっと手をあげた。
 すると怪人たちは、いきなり毛皮の袋に入った丁坊をだきあげて、窓の外に出した。
「呀《あ》ッ、――」
 目がくらくらした。はるかに何百メートル下の氷原が、きらきら光っている。
 丁坊の身体は、そろそろと下る。
 針金がだんだんのばされるのだ。針金一本が丁坊の生命の綱だ。
 おそろしい宙釣《ちゅうづ》りとなった。ぱたぱたと板のように硬い風が、丁坊の頬《ほほ》をなぐる。そして身体はゴム毬《まり》のようにゆれる。いまは遉《さすが》の丁坊も生きた心持がない。
 一体どうするのか。このまま下すのだろうか。どこへ下して、なにをさせようというのか。
 このとき丁坊は、すこしずつ近づく下界を見た
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