。いま空魔艦は、だんだん高度を下げながら一つところをぐるぐる廻って飛んでいるようだ。
「おお、あれは何だ」
 そのとき丁坊の眼に入ったものはなんであったか?
「船だ、船だ!」
 それは船であった。氷原の真只中《まっただなか》に、氷にとざされて傾いている巨船であった。
 ああ北極の難破船《なんぱせん》! あれが着陸地らしい。
 なぜ丁坊は、そんなところへ、ただ一人で下ろされるのか!
 いよいよ奇怪な空魔艦の行動であった。


   吊《つ》り綱《づな》


 空魔艦の上から、一本の綱でもって宙につりさげられた丁坊は、気が気ではない。
 丁坊の身体こそは温い毛皮で手も足も出ないように包まれているけれど、顔はむきだしになっていて、氷のような風がびゅうびゅうと頬《ほっ》ぺたをうつ。顔一面がこわばってしまって、すっかり感じがなくなり、まるで他人《ひと》の顔のような気がするのであった。
 下はまっしろに凍《こお》りついた氷原《ひょうげん》である。
ものの形らしいのは、氷上の難破船一つであった。
「あれはどこの国の船だろうかなあ」
 もちろん檣《マスト》には、どこの国の船だかを語る旗もあがっていず、
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