足の骨」と「手の皮」の二機は、ぐんぐん高度をあげて、北の方にとんでゆく。
「チンセイさん」
 と、また丁坊がよびかけた。
「なんだい、丁坊。ちと黙っていろよ」
「だってチンセイさん。僕はこうして、いつまでたっても毛皮の袋の中に入れられたっきりだぜ。いやになっちまうなあ。チンセイさんから頼んで、僕を袋から出してくれないか。僕はもう逃げやしないよ。日本へ帰ることもあきらめている。だけれど、こんな窮屈《きゅうくつ》な袋の中にいれられているのはいやだ。出して呉《く》れればコックのことだって、ボーイの役目だってなんなりとするよ」
 丁坊は熱心さを顔にあらわして、チンセイに頼んだ。
「そうだなあ」とチンセイはようやく本気になって、
「じゃあ一つ、機長の『笑《わら》い熊《ぐま》』さんに聞いてみてやろう」
「『笑い熊』だって?」
「ああそうだよ。それが機長の名前なんだよ。じゃおとなしくして、しばらく待っておれ、いいか」
 チンセイは背広のポケットに両手を入れたまま立ちあがった。


   難破船《なんぱせん》


 丁坊は、チンセイの帰ってくる足音を、いまかいまかと待ちつづけた。チンセイはうまく話をし
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