坊は非常に無念であった。
 すると、そのとき別の人がつかつかと出てきて、ピストルを持つ人の手をおさえた。ピストルを持っていた人は怒《おこ》ったらしい。二人が争うのを見ていた残りの人も、結局ピストルをうとうとした人をおし止めた。
「なんだ! 生命《いのち》は助かったのか」
 丁坊は弱味を見せまいとしたが、さすがに嬉しかった。
 しかしはたして、それは嬉しがることであったろうか。いや、丁坊は知らないけれど、彼の一命を助けた人というのは、この氷上の怪人団の智恵袋《ちえぶくろ》といわれている人物であって、やがてこの丁坊を、死よりも、もっとつらい仕事に使おうとしているとは、神ならぬ身の丁坊は知るよしもなかった。
 やがて中国人チンセイがよばれた。
 チンセイは丁坊の張番を命ぜられたのだ。十四五人の怪人は、もう用がすんだという顔つきで、大空魔艦の格納庫の方へすたすたと歩いていった。
「チンセイさん。僕のことを、あの人たちはどういってたの?」
 と、丁坊はチンセイに話しかけた。
「うむ、何にも知らん」
 チンセイはかぶりを振った。知っていても喋ると叱《しか》られるのが、こわいという気もちらしかった。
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