つい、そういってひとりごとをいったときに、この寝台の室の扉がさっとひらいた。そして扉の向うからひょっくり顔を出したのは、二十五六の背広の洋服をきた男であった。
その顔をみると、たしかに東洋人であった。丁坊は毛布にあごのところまでうずめながら少し安心した。
その男は、腰をかがめて丁坊の額《ひたい》へ手をやった。そしてううーと呻《うな》った。丁坊は目をつぶって狸《たぬき》ねいりをしていたのだが、このときぱっと目をあいてにこにこと笑った。
すると、背広男は、うわーっとおどろいて丁坊の前からにげだしたが、扉のところでおもいかえしたらしく、また丁坊のところへやってきた。そして丁坊の耳のところへ口をあてて、
「おれチンセイだ。この飛行機の中のありとあらゆる室を見まわっているえらい人間だ。おれをうやまったがいい。どうだ少年、もう気ぶんはなおったか」
といった。
チンセイのもののいい方は、日本人ではない。どうやら中国人みたいである。
国のない国
丁坊は寝台の上からチンセイに、ていねいに礼をいった。気ぶんもわるくはないこと、しかしおなかがたいへんへったことを話した。するとチ
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