のくらいあるかをしらべた上で、出来るものなら、空魔艦遠征部隊をつくることにしよう」
大月大佐は、遂に重大なる決意を固めて、そういった。
それはいいが、この会話がすっかり空魔艦に筒ぬけに聞えているのだから、まことに危いことだった。
高声器の前にいた空魔艦の隊長「笑い熊」は、うふふふと気味わるい笑い声をあげた。
「そうか。この若鷹丸は、やはり俺たちのことを探偵にやってきたのだったか。氷上づたいに俺たちを攻めるなんて、生意気なことをいっているな。よし、それではこっちにも覚悟があるぞ」
と、ひとりで肯《うなず》くと、また高声器の前に耳を傾けた。
ところが、高声器はもう何にも物をいわなくなった。
「おい、無線長。聞えなくなったじゃないか。一体どうしたのか」
といえば、狼狽《ろうばい》してしきりに目盛盤をうごかしていた無線長は、頭を一つ大きくふり、
「どうも変なことが起りました。急に相手の会話が聞えなくなったのです。あのいい器械が故障になることなんか、ない筈なんですがね」
といかにも不思議《ふしぎ》そうであった。
秘密発見
それよりすこし前のことであった。
丁坊少年の愛国心にすっかり感動してしまった大月大佐は、丁坊の方によると、袋に入った少年をしっかと抱えたのであった。そのとき大佐は、おやと思った。
それはたまたま大佐の手がふれた袋の一ヶ所がたいへん熱をもっていたのである。
大佐はびっくりしたが、同時にきらりと頭にひびいたものがあった。始めからどうも変だと思っていたのは、この少年の服装だ。ところが、いまその袋の下の方に手をふれてみたところが、たいへん熱い。
なにがこう熱いのであろうか。
空魔艦は、少年のために懐炉《かいろ》を入れておいたのであろうか。まさか、そのような親切が空魔艦の乗組員にあるはずがない。
大月大佐は大いに怪《あや》しみ、考えるところがあって丁坊には黙っているように合図し、隊員をよんで、袋の口を開くと丁坊をそっと袋の外にひっぱりだした。
外はなにもかも凍りついている寒さだ。袋を出たとたん丁坊は大きな嚏《くしゃみ》を二つ三つ立てつづけにやった。隊員は用意の毛布で、丁坊の身体をつつんでやった。
大月大佐は、一同に声を出さぬよう命令し、袋の中を隊員に調べさせた。
「この温いところに、何が入っているのか、よく調べろ」
と、手真似の命令だ。
隊員が、袋を切りひらいてみて愕《おどろ》いた。その熱い箇所から出てきたのは、精巧な無線の器械であった。よく見ると、マイクロフォンもついている。熱いのは、そこに点《とも》っている真空管が熱しているせいだった。
そこに居合わせた無線技士が、真空管をそっと外した。
そこでその器械は働かなくなった。もう喋《しゃべ》っても大丈夫だ。
「隊長。これは無線電信の送信装置ですよ。いままで真空管がついていたところを見ると、この器械のそばで喋っていたことは、すっかり電波になって空中を飛んでいたわけですよ。これは空魔艦のたくらみです。だからこっちの話はすっかり向うに聞かれちまったわけですぞ」
と無線技士は顔色をかえて、大月大佐にその精巧な器械を指した。
隊長は大きくうなずいて、
「うむ、気がついたのが遅かった。いや、それで丁坊少年を空魔艦が氷上になぜおとしたか漸《ようや》く分った。すっかり聞かれてしまったらしい」
丁坊の愕きは、更に深いものがあった。彼は自分でその変な器械を背負っていたのだから。そして秘密にしておかなければならぬ若鷹丸探険隊の重大な決心を、憎《にく》い空魔艦に知らせてしまったから。いくら、当人の丁坊が知らなかったこととはいいながら、全くそのはずかしさは穴の中にかくれたいくらいのものだった。
「丁坊君、悲観せんでもいい。なあに、どっちになったって、今の境遇では、大したちがいはないよ」
と大月大佐は丁坊をなぐさめ、そして他をふりかえって、
「おい誰か。丁坊君に新しい防寒服を大急ぎで作ってやれよ」
といえば、待っていましたとばかり、隊員が三四人声を合わせて承知の返事をした。
怪《あや》しき爆音《ばくおん》
丁坊はすっかり隊員のなかの人気者となった。隊長のお声がかりで、新しい防寒服はすぐ出来たし、その上、毛皮がそとについている防寒帽をつくってもらうやら、靴もエスキモーにならって外を魚の皮でつくり、内にはやはり毛皮を張ってあるものを貰うようにしてたいへんな可愛がられようであった。
「ああ嬉しいなあ。僕、まるで日本に帰ったような気がする」
そういって丁坊が跳《は》ねまわれば、隊員もそれを見てにこにこ顔であった。
しかしここは氷上の避難住居である。船もなければ、橇《そり》もない。到底《とうてい》日本へはかえれまい。丁坊はそれをはっき
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