り知らないのだろうと、蔭で涙ながして気の毒がる隊員もあった。
 隊長大月大佐は、丁坊の進言によって、空魔艦の根拠地へむけて遠征する計画をたてはじめた。
 幸いに、食料は三十日間だけあり、武器も弾丸の数にして五千発ばかりあったので、これなら一戦やれると見込がついた。
 隊員のなかから、十五名を選んで遠征隊員として、のこり五名をここにのこして置いて、予備隊とする。
 その一方、沈みゆく若鷹丸から持ち出した電波の無線機械を至急修理して、内地と連絡できるようにせよという命令が出て、無線班は食事も忘れて、しきりに器械をいじっていた。
「どうだ、松川学士《まつかわがくし》。遠征隊は何日《いつ》出発できるだろうか」
 と、大月大佐は、若い副隊長の松川彦太郎学士にたずねた。
「今のところ、どんなに急いでも、明日《あす》の朝になりますね」
「そうか。やっつけるなら、早い方がいい、急いでくれ」
「承知しました。急ぎましょう」
 隊員は、さらに急がしくなった。
 いつの間に陽《ひ》が傾いたのか、よくわからなかったが、既にして夕刻となり、あたりはもううすぐらくなりかけた。
 空の遠くには、まだ極光が現れ、そのうつくしい七色の垂れ幕がしずかに動いてゆく。
 そのとき空の一角から、轟々《ごうごう》と爆音がひびいてきた。
「ああ、空魔艦だ」
 まっさきに気がついて飛びだしたのは、丁坊であった。
「なに、空魔艦?」
 隊員はおどろいて天幕《テント》の外に出た。
 なるほど、真北の空、地上から約五千メートルと思われる高空に、空の怪物大空魔艦がうかび、しずしずこっちへ近づいてくる。
 大月大佐も、天幕の外にとんで出たが、このとき叫んだ。
「おい。大急ぎで天幕のなかに隠れろ。こっちの姿を見せてはならぬぞ。早くしろ」
 隊長の命令で隊員一同は天幕のなかに走りこんだ。
 息をこらしてまつほどに、爆音はいよいよ大きくいよいよ近づき、天幕はびりびりと振動をはじめた。
「あっ、空魔艦の腹から、なにか黒いものがとびだしたぞ」
 と天幕の裂け目から望遠鏡で空をのぞいていた隊員の一人が叫んだ。
「そうか。それは爆弾だぜ」
「爆弾! あっ落ちてくる。ぐんぐんこっちへ近づいてくるぜ。これはいけねえ」
 望遠鏡をもった隊員は叫ぶ。


   試練の嵐


 空魔艦のなげおろす爆弾は、いよいよ氷上にぶつかった。
 どどーン、ぐ
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