手真似の命令だ。
隊員が、袋を切りひらいてみて愕《おどろ》いた。その熱い箇所から出てきたのは、精巧な無線の器械であった。よく見ると、マイクロフォンもついている。熱いのは、そこに点《とも》っている真空管が熱しているせいだった。
そこに居合わせた無線技士が、真空管をそっと外した。
そこでその器械は働かなくなった。もう喋《しゃべ》っても大丈夫だ。
「隊長。これは無線電信の送信装置ですよ。いままで真空管がついていたところを見ると、この器械のそばで喋っていたことは、すっかり電波になって空中を飛んでいたわけですよ。これは空魔艦のたくらみです。だからこっちの話はすっかり向うに聞かれちまったわけですぞ」
と無線技士は顔色をかえて、大月大佐にその精巧な器械を指した。
隊長は大きくうなずいて、
「うむ、気がついたのが遅かった。いや、それで丁坊少年を空魔艦が氷上になぜおとしたか漸《ようや》く分った。すっかり聞かれてしまったらしい」
丁坊の愕きは、更に深いものがあった。彼は自分でその変な器械を背負っていたのだから。そして秘密にしておかなければならぬ若鷹丸探険隊の重大な決心を、憎《にく》い空魔艦に知らせてしまったから。いくら、当人の丁坊が知らなかったこととはいいながら、全くそのはずかしさは穴の中にかくれたいくらいのものだった。
「丁坊君、悲観せんでもいい。なあに、どっちになったって、今の境遇では、大したちがいはないよ」
と大月大佐は丁坊をなぐさめ、そして他をふりかえって、
「おい誰か。丁坊君に新しい防寒服を大急ぎで作ってやれよ」
といえば、待っていましたとばかり、隊員が三四人声を合わせて承知の返事をした。
怪《あや》しき爆音《ばくおん》
丁坊はすっかり隊員のなかの人気者となった。隊長のお声がかりで、新しい防寒服はすぐ出来たし、その上、毛皮がそとについている防寒帽をつくってもらうやら、靴もエスキモーにならって外を魚の皮でつくり、内にはやはり毛皮を張ってあるものを貰うようにしてたいへんな可愛がられようであった。
「ああ嬉しいなあ。僕、まるで日本に帰ったような気がする」
そういって丁坊が跳《は》ねまわれば、隊員もそれを見てにこにこ顔であった。
しかしここは氷上の避難住居である。船もなければ、橇《そり》もない。到底《とうてい》日本へはかえれまい。丁坊はそれをはっき
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