は、そのどっちであるかを一刻もはやくたしかめたいと思った。
氷原はぐんぐん足の下にもりあがってくる。はじめは小蒸気《こじょうき》ぐらいに思えた難破船が、だんだん形が大きく見えてきて、今はどうやら千五六百トンもある大きな船に見えてきた。
すると船上に、今まで見えなかった人影が五つ六つ現われているのに気がついた。
「ああ、人だ。あの船に人がいる」
丁坊は嬉しかった。
たとえ善人であろうと悪人であろうと、そんなことはどうでもいい。生きた人間がいさえすればいいのだ。氷原に誰一人として生きた人間がいなければ、このまま落下傘で下りてみたところで、丁坊は餓死《がし》するか、さもなければこの辺《へん》の名物である白熊に頭からぱくりとやられて、向うのお腹《なか》をふとらせるか、どっちかであろう。
しかしもう大丈夫だ。生きた人間が見ている以上は自分をかならず助けてくれるであろう。
丁坊は、はじめていつものような快活な少年にもどっていった。
はたして丁坊の思ったとおり、彼の一命はうまくすくわれるであろうか。
銃声《じゅうせい》
落下傘はついて、丁坊を氷原の上になげだした。
風があるので、丁坊のまるい身体は、氷上をころころと毬《まり》のように転《ころが》ってゆく。はやく助けてくれなければ、いまに氷の山かなにかにぶつかって死んでしまう。はやく頼む。
そのうちに、うしろの方で思いがけなく大きな銃声がした。
だーん、だんだだーん。
「ああ、僕を撃《う》った。やっぱり彼奴《きゃつ》らも大悪人だ。なぜ罪もない僕をうつんだ」
丁坊は、また大きな失望と恐怖とに陥《おちい》った。しかも間もなく、彼はそれが間違いであったことに気がついた。
なぜなら彼の丸い身体が、急にどしんと軟《やわらか》い白いものに当ったからである。それに落下傘の綱がうまくひっかかったものだから、それ以上、氷原を転がらなくてもいいことになった。その白い軟いものをよくよく見れば、それは大きな白熊だった。
こわい!
いや、こわくはない。その白熊は顔面をまっ赤に染めて、氷上にぶったおれていたのだ。血だ、血だ。その赤い血は、傷口からふいて氷上に点々としたたっていた。
「ああ、あぶないところだった」
毛皮を頭からかぶった真先《まっさき》にとんできた人間が、銃の台尻《だいじり》で熊の尻ぺたをひっぱたいて、
前へ
次へ
全34ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング