嬉しそうに叫んだ。その声は、丁坊をたいそうおどろかせた。
なぜって?
なぜというに、それは紛《まぎ》れもない懐《なつか》しい日本語だったからである。
ぱたぱたと続いてかけつけた同じような服装《ふくそう》の人が五六人みな銃を手に握っている。この人たちのお蔭で、丁坊に喰いつこうと思って氷上に待っていた白熊が射殺《いころ》された。するとこの日本人たちは、あきらかに丁坊の危難をすくってくれたことになる。
「おじさん、白熊をうってくれてありがとう」
と丁坊が大声で叫ぶと、かけつけた人たちはふりかえって愕《おどろ》きの眼をみはった。
「な、なんだって、――お前は日本語をしっているのか」
「知らないでどうするものか。見よ東海の天《そら》あけて――僕、日本人だもの」
落下傘についていた少年が、愛国行進曲をあざやかに歌って、僕は日本人だあと叫んだのであるから、氷上の人たちはあまりの意外に眼をみはるばかりだった。
「――ああ、たしかに日本人らしい。どうしてまあ、こんな北極にちかいところへ君はやってきたんだ」
と、最初にかけつけた男がいって、丁坊に近づこうとすると、残りの人たちがびっくりしたような顔をしてその身体をひきもどした。
「おい一木《いちき》。はやまったことをしてはならんぞ。近づいちゃいかんというのだ」
丁坊は、はっとした。
「なんだ二村《にむら》、いいじゃないか。これは日本少年だ。声をかけてやるのが当り前だ」
「いや、いけない。お前はこの子供が、空魔艦の者だということを忘れているのだろう。かるはずみなことをして、大月大佐《おおつきたいさ》に叱られたら、どうするつもりだ」
「そうだったね、二村」
と、一木と呼ばれた親切な人も、手をひっこめそうになった。
丁坊は思わずはらはらと涙をこぼした。せっかく日本人にあいながら自分が空魔艦から下りてきたということのために、たいへんいやがられ、そして恐れられているのだった。やっぱり自分はひとりぽっちなのか。
大月大佐
「おお、本船が信号をしているぞ」
一人がうしろをふりかえって叫んだ。
「どうしたのか、わけをしらせろって、大月大佐の御催促《ごさいそく》だ」
すると一木が、
「じゃ丁度《ちょうど》いいじゃないか。わけを報告してこの日本少年をどうしましょうと聞けやい」
「そうだったね。うむ、聞いてみよう」
丁坊
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