箸《はし》ではさみながら、にっこり笑った。
「おれはこれで三度日の宇宙旅行なんだが、お前は始めてだから、勝手がわからないで困るだろう」
「困ることも、ありますねえ。第一、朝になった、昼になったといわれても、外はこのとおりまっくらですからねえ。勝手がちがいますよ」
「そうだろう。永年、太陽の光の下でくらしていた身になれば、まっくらな夜ばかりの連続では、くさくさするのも、むりじゃない」
「太陽の光線は、今となっては、とてもなつかしいものですね」
三郎は、しみじみといった。地上に照る太陽の眩《まぶ》しい光を思い出す。地上から、まいあがっても、成層圏《せいそうけん》ちかくのところまでは、それでもまだうっすらと夕方のような太陽のかすかな光があったが、成層圏の中をつきすすんでいくうちに、いつしかあたりは、暗黒と化《か》してしまった。しかも、はるかに天の一角を見ると、ダイヤモンドをふりまいたように、きらきらと輝くうつくしい無数の星に変って、われらの太陽が、青白く光っているのであった。太陽は光っているが、空はまっくらであった。まるで夜中に満月を仰《あお》いでいるのと、あまり感じがちがわなかった。今か
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