どんどん報告がやってきて、艇長は、また前のような忙しさの中に入ってしまった。
「ふむ、ふむ。やっぱり無理か。よろしい、では、本艇を月に着陸させることにしよう」
 機関部の報告によれば、このままでは、どうにもならぬということなので、艇長はついに決心をした。
「命令。本艇の針路《しんろ》を月に向けろ」
 航空士は、直ちに舵《かじ》をひいて、噴行艇の針路をかえた。
 艇長は、また叫んだ。
「命令。月に着陸の用意をせよ。――それから、本隊司令に対し、連絡をせよ」
 いよいよ艇内は、総員の活動で、にわかにさわがしくなった。


   宇宙服


「おーい。三郎君。早くこっちへ来い」
 入口から、三郎を呼ぶ者があった。
 三郎がその方へふりかえると、入口に鳥原青年の顔があった。
「鳥原さん。何の用で?」
「いよいよ月の世界へ下りることになったので、皆、むこうで宇宙服の着方をおそわっているのだ。君も早く来い」
「あ、宇宙服ですか、もう始まったんですね。じや、艇長にちょっとお許しを得ていくことにしましょう」
 三郎は、艇長に申出て、許可をうけ、鳥原青年とともに、艇夫室へ急いだ。
 艇夫室には、艇夫たち
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