か現場よりの報告は来ないか」
「はい。あれきりです。新しい報告はまだ一つも入りません」
「そうか。ふうむ」
そういっているとき、無電配電盤に、ぱっぱっと、監視灯がついたり消えたりした。
「おや、第四斥候隊が、こっちを呼んでいるぞ。これはめずらしい」
「えっ、第四斥候隊それにまちがいがないか。今まで、何のしらせもなかった第四斥候隊か」
艇長は、席を立って、無電員の傍へやってきた。だが無電員はそれにへんじをしなかった。彼はむちゅうになって、無電をうけて、その電文を紙の上に書いているのであった。ああ、それはまちがいなく第四斥候隊からの始めての報告だった。
辻中佐は、いそがしそうにうごく無電員の手の間から、次のような電文を読みとった。
“第四斥候隊報告。わが隊は、すこし考えるところありて、火星人隊発見まで、電波を発射しないことを定めおけり。そのわけは、電波を発射せば、火星隊のために、かえってわが隊の所在をしらせることをおそれたるがためなり”
「なるほどなるほど」
艇長はうなずいた。
報告書は、なおその先があった。
“……わが隊は、アメ山より、対《むか》いのヒイラギ山のかげに火星人の乗物があるのを発見せり。火星人隊の総勢は約十名かとおもわれる。彼らの乗物は、その形、大きい皿の如く、その中央の出入口よりぞろぞろと現われるのを見たり。わが隊は、そのあとにて、アメ山を下りて、ひそかに火星人の乗物に近づけり。幸《さいわ》いに乗物には火星人の居る訳なし。しかも出入口は、明け放しになり居りたるゆえ、内部へ入りて見たり。その結果、われらは、風間、木曾の二少年を発見せり”
「ほう、二少年が見つかったそうじゃ」
“……さりながら、二少年は共に、人事不省《じんじふせい》のありさまにて発見せられたるゆえ、われらはおどろき、手当を加えつつあるも、いまだにそのききめなきはざんねんなり。われわれ二少年をこのまま連れ戻ろうとす。医療の用意をたのむ”
「ほう、二少年とも人事不省だそうだ。それをたすけて、第四斥候隊はこっちへ戻ってくるというが、うまくかえれるかどうか、わからない。すぐさま、第四斥候隊の方へも、救援隊を向けてやれ」
辻中佐は、心配の中にも、第四斥候隊の無事だったことを知って、ほっと一息ついたのであった。
我、飛びつつあり
「それにしても、第五斥候隊の方はどうなったかな」
辻中佐は、第四斥候隊の方と連絡が取れ、風間、木曾の二少年が発見されたことがわかると又今度は火星人と大乱闘をやっているに違いない第五斥候隊のことが心配になって来た。
「おい、救援隊は出発したか」
幕僚をふりかえった。
「はい、すでに第五斥候隊へ、救援隊は二ヶ隊出発し急行中であります。第四斥候隊への救援隊は只今間もなく出発いたします」
「ふむ、そうか。――おい無電員、第四斥候隊を呼出して命令を伝えるんだ。いいか、第四斥候隊はその皿のような形をした火星人の乗物を確保していろ、敵に渡してはならん。それからただちに救援隊を向けるということも伝えてやれ」
「はッ」
無電員は、すぐさま第四斥候隊を呼出して、連絡をとりはじめた。ところがところが第四斥候隊からは受信の応答があったかと思うと、そのまま、又ぱったりと連絡が切れてしまった。もういくら呼んでも、うんともすんともいって来ないのである。
無電員は真ッ赤な顔をして送信器に取りついていたが、やがて、弱ったような顔をして幕僚の方をふりかえった。
「どうも困りました。第四斥候隊とは又連絡が切れてしまいました」
「ふむ、何か起ったかな」
「何、また返事をせんのか、ふーん、すると火星人が自分たちの乗物のところに帰ってきたのかも知れんな」
艇長がうなずいた。そして眉をしかめた。それは、こういうことを考えたからである。つまり火星人たちが第五斥候隊を撃破してしまって、悠々と自分たちの乗物のところに帰って来て見ると、其処《そこ》にはまだ第四斥候隊が頑張っていた。しかも第四斥候隊は、たった今、辻艇長からその火星人の乗物を渡してはいかん、という命令を受けたばかりなので、ここで又、大乱闘がはじまってしまったのではあるまいか――。それで無電連絡が切れてしまったのではあるまいか――。
「うーん」
部下思いの辻艇長は、眼の前にひろげられた月面図の上に腕を組むと、しきりにうなっていた。第五斥候隊は、救援隊が到着する前に全滅してしまったのかも知れない。その上、風間、木曾の二少年を発見した第四斥候隊も、たった今出発した救援隊の到着するまで、うまく相手を防いでいるかどうか疑問である。何しろ相手は、得体《えたい》の知れない火星人なのだ。
「困ったことになったぞ……」
辻中佐は、この馴《な》れない月世界の上で奮闘している部下のことを、しきりに心配していた。
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