が、この時第四斥候隊の方には、辻艇長が心配していた以上のことが起こっていたのだった。
それは、間もなく第四斥候隊報告として、この司令室の無電機に飛込んで来た。受信している無電員が、先《ま》ずびっくり仰天《ぎょうてん》するような報告だった。
“第四斥候隊報告。わが隊は、目下月世界を離れて飛びつつあり……”
「えッ」
無電を受けている無電員が、思わず「えッ」といってしまった。これはなにかの間違いではないか、と思った。しかし、たしかに第四斥候隊からは、そう無電がはいって来るのだ。
無電員のびっくりした声に、幕僚と艇長とが「どうかしたのか……」というようにのぞきに来た。そして、無電員の肩越しに一生懸命に鉛筆をはしらせている受信器の上の文句を読んで、艇長と幕僚も又、おやっというように顔を見合わせてしまったのだった。
“……わが隊は、目下月世界を離れて飛びつつあり……”
この不思議な報告にはまだあとが続いていた。
斥候隊の報告
“わが隊は大なる皿の如き、彼らの乗物を確保しありたりところ、突然火星人の来襲せんとするを発見せるをもって、ただちにこの乗物の内部に入り、すべての出入口を厳重に閉ざしたり。これは外に出て火星人を撃退せんとせば、風間、木曾の二少年に若《も》しものことが起らずとは保証出来ざるためなり。幸い、両少年とも息をふきかえしたるも、未《いま》だに自由に活動出来ざる状態にあり……”
「うーむ、風間も木曾も、いい具合に息をふきかえしたらしいな」
艇長は、にっこりして幕僚の方を一寸《ちょっと》見たが、すぐ又、電文の方に眼を移した。なかなか、長い報告だった。
“……しかるにこの乗物の出入口を全部閉ざすや否《いな》や、忽然《こつぜん》として空中に浮動するを発見せり。早速ガラス製と思われる窓より、離れゆく月面上を見るに、本乗物の飛行を知って火星人らは痛く驚愕狼狽《きょうがくろうばい》の模様なり、考うるに、本乗物を失っては彼らは既に火星に帰ることが不可能となったためと思わる。これによって見るに、本乗物はわが隊を乗せて、一路火星に飛行するものの如し”
そこでこの奇怪な目にあっている第四斥候隊からの報告が切れた。
すると、すぐ続いて、今度は第五斥候隊からの無電がはいって来た。
「お、第五斥候隊からの報告だよ、うむ、うむ、無事だったと見えるな」
艇長は、ひとりでつぶやいて、ひとりで頷《うなず》いた。そしてすぐ又、いそがしく鉛筆をはしらせている無電員の手もとを見つめていた。
“第五斥候隊報告。わが隊の携帯用無電機眼がけて拳をふりあげて来った怪物団は、その甲虫の如き頑丈なる身体つきにも拘《かか》わらず、力ははなはだ弱きことを発見せり。
彼らはわれわれの強力無双なるに驚愕せらるものの如し……”
「ふーむ――」
辻中佐は、その報告を読んで、にやりとした。この第五斥候隊が、自分で自分たちのことを強力無双などと大変な力持ちのようにいっているのには、わけがあった。つまり、ここは月世界なのだから、地球に比べて重力は六分の一しかないのである。地球上で十キロのものしか持ち上げられない者も、この月世界に来れば、実に六十キロの大岩石を悠々と持ち上げてしまうことになるのだ。地球上の六倍の力もちになってしまうのである。だから、第五斥候隊となっている艇員たちは、誰も彼も、二百キロぐらいの大岩石を、平気で投げ飛ばすほどの力持ちばかりが揃《そろ》っていることになるわけである。
それでは、襲撃して来た怪物の方でびっくりするのも無理ではない。
勝ちほこった第五斥候隊からの報告は、まだ続く。
“……かくして怪物団の彼らも閉口したかに思わるる時、はるかに救援隊の二ヶ隊の近づきつつあるを知ったため、最早《もはや》戦闘にはかなわぬと見たるか一斉に退却を開始せり。思うに、風間、木曾の二艇夫の行方不明は、この怪物団の仕業かと疑われるをもって、わが隊は到着せる救援隊と共に、時を移さず目下これを追跡中なり”
「なあるほど」
幕僚がうなずいて、辻艇長の方を見ると、
「火星人は、力はあまり強くないと見えますな」
「ふむ、火星は地球によく似とるが、重力は地球に比べて三分の一ほどだからな、火星人たちが月に来れば、だいぶ重力が減ったので急に力持ちになったように思っとったんじゃろうが、しかし地球人が月に来たことを思えば問題にならんよ」
辻中佐がいった。そして、
「追跡しとるのはいいが、それから先どうなったかな?」
そういった時、まるでそれが合図だったように、又も、第五斥候隊からの報告がはいって来た。
“第五斥候隊報告。わが隊は怪物団を追跡して(この怪物団が火星人であることを、到着せる救援隊より知らせられたり)アメ山を越えて、そのむかいのヒイラギ山附近まで進出せる時、突如そのヒ
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