にそんなことをいった。コーヒーは、なかなかさめなかった。
そのときであった。噴行艇は、ものすごい音をたてて震動した。今にも、艇はばらばらに壊れそうなくらいに、がんがんびしびしと鳴りだした。
「やっ、どうした?」
艇長が立ち上るのと、非常電話器から、当直長のこえがとびだすのと、同時であった。
「艇長。非常報告。只今本艇に向けて、宇宙塵《うちゅうじん》が雹《ひょう》のように襲来しました。損害調査中です」
宇宙塵? 宇宙塵とは、何であろうか。
宇宙塵《うちゅうじん》
震動は、すこし止《や》んだかと思うと、またばらばらがんがんと、ひどくゆれた。
「宇宙塵か。相当ひどい宇宙塵だ」
艇長は、壁のところへとんでいって、棚から帽子を出して、かぶった。
「お出かけになりますか」
「うん、司令室へ入る」
「宇宙塵とは、なんですか」
「そんなことは、誰《だれ》か他の者に聞け。今、それを説明しているひまはない」
そうでもあろう。
艇長は、室を横ぎって、出入口の方へ。
「艇長。コーヒーはおのみになりませんか」
「おお、そうだ。コーヒーをのもうと思っていて、忘れていた。おれも、よほどあわてたらしいね」
そういいながら、艇長は卓子《テーブル》のところへひきかえしてきたが、とたんに大きなこえでどなった。
「なあんだ。コーヒーは、みんな茶碗の外にこぼれてしまったじゃないか。艇夫、こんど、わしが戻ってきたら、そのときはすぐコーヒーをのませるんだぞ」
「へーい。どうもお気の毒さまで……」
「わしは今日、コーヒーにたたられているようじゃ」
艇長は、朗《ほがら》かなこえをのこして、室外へとびだしていった。
震動は、いいあんばいに、ようやくとまったようである。
三郎は、雑巾《ぞうきん》で卓子のうえをふきながら、
「はて、宇宙塵とは、どんなものだろうねえ」
と、ふしぎそうに、首をかしげて、卓子のうえの同じところをいくどもふいている。
そのころ、廊下が、いやにさわがしくなった。大ぜいが、靴音もあらあらしく、かけていく様子である。
三郎は、不安な気持になって、出入口の外に顔を出した。
「おう、鳥原さん。なんです。このさわぎは……」
ちょうど幸いに、三郎は、日頃兄のように尊敬している艇夫の鳥原青年が通りかかったのでいそいでこえをかけた。
「やあ、風間の三《さ》ぶちゃんか」
鳥原は、そばへよってきて、
「どうもえらいことが起ったよ。本艇は、故障を起してしまったよ。そして、編隊からひとり放れて、もうずいぶん後にとりのこされてしまったよ」
と、鳥原青年は、いつになく、おちつきをうしなっている。
「故障? 本艇のどこが故障したの」
「本艇の後方に、瓦斯《ガス》の噴気孔《ふんきこう》があるだろう。つまりわが噴行艇を前進させるために、はげしいいきおいでこの噴気孔から後方へ向け瓦斯を放出しているわけだが、その噴気孔が、どうかしてしまったらしいのだ。さっぱり速度が出ないうえに、妙な震動が起ってとまらないのだ。ほら、あのとおり気味のわるい震動がしているだろう」
「あ、なるほどねえ」
鳥原のいったとおりだ。ぶるぶるん、ぶるぶるんと気持のわるい震動音がきこえる。
「鳥原さん、一体どうして、そんな故障が起ったんだろうねえ」
「それは、宇宙塵が襲来したからさ」
「宇宙塵? やっぱりねえ」
三郎は、またわけのわからない宇宙塵の話にぶつかってしまった。
修理困難
「鳥原さん、宇宙塵て、一体、どんなもなの[#「どんなもなの」はママ]。さっきから、宇宙塵だ宇宙塵だという話ばかりで、ぼくは面くらっているんだよ」
「なんだ、三《さ》ぶちゃんは、あの宇宙塵を知らないのか」
と、鳥原青年は、鼻のあたまを手でこすった。
「宇宙塵というのは、わかりやすくいうと、星のかけらのことさ」
「星のかけら? じゃあ、隕石《いんせき》のこと」
「そうそう、隕石も、宇宙塵のお仲間だよ。隕石は、地球へおちてくる宇宙塵のことだけれど、この大宇宙には、地球へおちてこない星のかけらがずいぶん宇宙をとんでいるんだ。時には、それがまるで急行列車のように、或いは集中砲火のように、砂漠の嵐のようにとんでくるんだ。いや、それは、とてもわれわれ人間の言葉ではいいつくせないほど、ものすごいものなんだ。ちょうど本艇は、運わるく、その宇宙塵にぶつかったんだ。いや、宇宙塵が、斜めうしろからものすごいいきおいで追いかけてきたんだ。そして、あっという間に、がんがんがんと、うしろから本艇を叩きつけて通りすぎてしまったのだが、そのときに、宇宙塵が本艇の噴気孔を叩き壊していったらしいという話だ」
「へえ、宇宙塵というやつは、ものすごいねえ」
「そうさ。空の匪賊《ひぞく》みたいなものだ」
「空の匪賊だって、鳥
前へ
次へ
全29ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング