つぶやいて、ひとりで頷《うなず》いた。そしてすぐ又、いそがしく鉛筆をはしらせている無電員の手もとを見つめていた。
“第五斥候隊報告。わが隊の携帯用無電機眼がけて拳をふりあげて来った怪物団は、その甲虫の如き頑丈なる身体つきにも拘《かか》わらず、力ははなはだ弱きことを発見せり。
彼らはわれわれの強力無双なるに驚愕せらるものの如し……”
「ふーむ――」
辻中佐は、その報告を読んで、にやりとした。この第五斥候隊が、自分で自分たちのことを強力無双などと大変な力持ちのようにいっているのには、わけがあった。つまり、ここは月世界なのだから、地球に比べて重力は六分の一しかないのである。地球上で十キロのものしか持ち上げられない者も、この月世界に来れば、実に六十キロの大岩石を悠々と持ち上げてしまうことになるのだ。地球上の六倍の力もちになってしまうのである。だから、第五斥候隊となっている艇員たちは、誰も彼も、二百キロぐらいの大岩石を、平気で投げ飛ばすほどの力持ちばかりが揃《そろ》っていることになるわけである。
それでは、襲撃して来た怪物の方でびっくりするのも無理ではない。
勝ちほこった第五斥候隊からの報告は、まだ続く。
“……かくして怪物団の彼らも閉口したかに思わるる時、はるかに救援隊の二ヶ隊の近づきつつあるを知ったため、最早《もはや》戦闘にはかなわぬと見たるか一斉に退却を開始せり。思うに、風間、木曾の二艇夫の行方不明は、この怪物団の仕業かと疑われるをもって、わが隊は到着せる救援隊と共に、時を移さず目下これを追跡中なり”
「なあるほど」
幕僚がうなずいて、辻艇長の方を見ると、
「火星人は、力はあまり強くないと見えますな」
「ふむ、火星は地球によく似とるが、重力は地球に比べて三分の一ほどだからな、火星人たちが月に来れば、だいぶ重力が減ったので急に力持ちになったように思っとったんじゃろうが、しかし地球人が月に来たことを思えば問題にならんよ」
辻中佐がいった。そして、
「追跡しとるのはいいが、それから先どうなったかな?」
そういった時、まるでそれが合図だったように、又も、第五斥候隊からの報告がはいって来た。
“第五斥候隊報告。わが隊は怪物団を追跡して(この怪物団が火星人であることを、到着せる救援隊より知らせられたり)アメ山を越えて、そのむかいのヒイラギ山附近まで進出せる時、突如そのヒ
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