は、手にしていた受信紙を司令の前に出した。
気になる火星世界のニュース?
一体、それはどんなことであったろうか。そしてそれは、今、月世界において、怪人群のため捕虜《ほりょ》になっている風間三郎少年や、木曾九万一少年の身の上と、どんな関係があるのであろうか。
中佐のおどろき
司令は、めがねごしに、受信紙の上に書かれてある文字をひろう。
その文は、次のようなものであった。
偵察者213報告――火星人の月世界派遣隊により火星本国に向けて発せられた通信によると、その派遣隊は、地球人類の乗っている噴行艇一隻が月世界についたのを見た。また、その噴行艇の乗組員であるところの二名の日本人を捕虜にして、只今取調べ中である。なお、その噴行艇との間にはまだ戦いは始まっていない。
司令大竹中将の太い眉《まゆ》が、ぴくんとうごいた。
「ふーん、これは容易ならぬニュースではないか。のう、幕僚長」
司令は、そういって、机の前に立っている幕僚長の顔を見上げた。
「はい、はなはだ容易ならぬことでございます」
「月世界に、火星人の先遣隊《せんけんたい》がいっていたなどとは、わしは知らなかった。これは本当かな」
「は、月世界に不時着しましたアシビキ号に対し、只今連絡中でございますから、もうしばらくおまちねがいたいものです。しかし今迄の報告では、月世界は昔のとおりの無人の境地だと書いて居りました。もし偵察者213の報告が正しいものとすれば、容易ならぬことであります」
「そうか。早くアシビキ号の辻中佐を呼びだしてもらいたいものじゃ。二名の日本人が、火星人につかまえられたというが、どうしてつかまえられたものじゃろうか。一体、そいつは誰と誰なのか、それも早く知りたいものじゃな」
「は、ごもっともです」
「もし火星人と戦いを始めるようなことになれば、こっちは捕虜になっている者が二人もあるわけだから、相当こっちは不利じゃね」
「は、さようでございます」
「辻中佐の豪胆なることについては、わしも知らないわけではないが、そういう不利な態勢でもって、思いがけなく火星人と月世界の上で戦うのでは、ずいぶんとやりにくかろう」
司令は、辻中佐のため、かなり心をいためているようすである。
ああ火星人!
火星人が、月世界の上で二名の日本人を捕虜にしたといっているが、そうすると、その日本人というのは、
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