がつきました。計算をしてみれば、よくわかりますが、これからのちには、きっと今よりも、ずっと地球に近づくときがあるはずです」
「じゃあ、すぐ計算にかかりたまえ」
「はい。どのへんまで近づくか、早くしりたいものですねえ」
「あわててはいかん。まちがいのない計算をたてたまえ。そのあとで、どうしてそのムビウムを採取するか、その仕掛けのことも考えるんだ。性能のいい噴行艇をそろえるにも、これから相当の日がかかるだろう、何年かあとに、一等近づいてくれると、こっちには都合がいいのだが……」
 実戦の猛将でもあり、また航空技術にもすぐれている大竹中将は、早くもこれからの方針を頭の中にたてて緑川博士をはげましたのであった。
 こういう秘話があってのちに、百七十|隻《せき》の噴行艇から成る宇宙遠征隊が編成せられたのであるが、それは三年のちのことであった。そしてムーア彗星は、それからのち更に五年ののちに一等地球に近づくのであった。
 これはつまり、その当時から八年後にムーア彗星は、一等地球に近づくのであって、すべて緑川博士の計算から出てきたものであった。
 さきに、大宇宙遠征隊は、十五年の行程で出発したといったが、出発して五年のちにムーア彗星にあい、その後十年して、地球へ戻ってくる計算であった。なぜ帰りに十年もかかるかというと、全隊がムビウムを採取したのち、一つに集合するまでにもかなりの月日がかかるであろうし、いよいよそれを積みこめば、噴行艇の荷が重くなるため、帰り道は行くときより日がかかると思われるし、また万一何か故障があったときのことも考えて、充分安全なように、その十年という年月のゆとりをおいたのであった。
 さて話は元へ戻る。ここは司令艇の司令室であった。
 司令大竹中将が、めがねをかけて、書類をしらべているところへ、幕僚長が先頭に、数人の幕僚をひきい何か昂奮《こうふん》している様子で部屋へ入ってきた。
「司令。会議の時刻になりました」
 と、幕僚長がいえば、大竹司令は、めがねをはずして、
「おお、もうそんな時刻になったか。今、例の火星世界の偵察報告を夢中になってよんでいたが、中々前途多難じゃね」
 司令のめがねは、火星世界の偵察報告の開かれたページの上におかれた。
「はい、司令。そのことでございますが、実は只今、ちょっと気になる火星世界のニュースがまた一つ入りました」
 と、幕僚長
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