禿《は》げているところがあり、頭の上には、りっぱな角のような触角が二本、にゅっと出ていた。頭の、その他のところは河馬《かば》のように妙にうす赤い色をおび、てらてらと光っていた。
それから胴は、鳥のようにふくれていた。しかし腹のところは、鎧をきたようになっていて鳥とはちがう。背中には、甲虫の翅《はね》と同じような翅が畳みこまれているようであった。その翅のつけ根の横には、触角とはちがい、もっとぐにゃぐにゃしたゴム製の管のようなものがついていた。それはたいへん長くて、地上に達していたが、うごいているうちに、急に短くちぢんでしまうこともあった。これは手の代用物であろう。触手というものかもしれない。とにかく、いまだきいたこともないふしぎな生物であった。
もう一つ、ふしぎなのは、その怪物の足であった。足は、その怪物の下腹のところから二本にゅっと出ていた。その足はちょっと見ると、鶴の脚《あし》に似ていた。しかしよく見ると、関節が二つもあり、大地をふまえるところには、五本の指があって、水かきのようなものがついていた。しかもこの奇妙な足は、どこから見ても丈夫に見えた。何だか、金属を組合わせて足の形にしたもののようにも見えた。
(一体、何だろう。この高等怪物は……)
三郎は、そばへぴったりすりよってくる、木曾九万一の身体をかかえながら、眼をみはった。
その怪物の中に、どうやら大将らしい怪物があった。その怪物は他の怪物と、しきりに連絡をしていたようであったが、やがて連絡がすんだのか顔を二人の方に向けた。
「おい、君たちは、日本人だろう」
その怪物が、いきなり日本語で話しかけてきた。それには三郎は、びっくり仰天《ぎょうてん》した。
「ええっ!」と、三郎はいったきり、全身から、汗がふきだしてたらたらと流れた。
ふしぎだ。なぜその怪物は、日本語をはなすのであろうか。第一空気もないのに、なぜその怪物のはなしが、三郎の耳にきこえるのであろうか。
三郎はわが耳をうたがった。
「これこれ、べつに君たちの生命をおびやかすつもりはないから、安心して、われわれの問いにこたえなさい。君たちは日本人だろうね。今、かおいろをかえたじゃないか」
怪物の首領は、にくいほど、はっきりした口調で、三郎たちに話しかけてくるのであった。
三郎は、こたえたものかどうかと、考えているうちに、木曾が前にのりだした
前へ
次へ
全58ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング