がら、彼らのいうことを、聞くとはなしに耳をかたむけた。
「……というわけなんだが、なんかいい名前を考えてくれよ」
「そうさなあ。そんなことはわけなしだい。チュウイチてえのはどうだ」
「チュウイチ? どんな字を書くのかね」
「宇宙の宙と、一二三の一よ。つまり宙一というわけだ。お前は、はじめて噴行艇にのって宇宙へのりだしたんだろう。だから、その留守《るす》に生れた子供に宙一とつけるのは、いいじゃないか」
「なるほど、宙一か。よい、いい名前だ。昨夜からおちつかなかったが、これでやっと、気がおちついたぞ」
と、その艇夫は立ち上る。
「お前、どこへいくんだい」
「知れたことよ。これから無電室へいって、今すぐ家内《かない》のやつを、無電で呼びだしてもらって宙一という名をおしえてやるのさ。説明してやらなくちゃ、うちの家内は、あたまが悪いと来ているから、通じないよ」
「まあ、なんとでもするがいい。ついでに、うちの家内にことづけをして、お前の家内のところへ、子供の誕生の祝物をとどけるようにいってくれ」
「ばかなことをいうな。こっちから、さいそくをする――それではおかしいよ」
「遠慮するようながらでもあるまいに、あははは」
「あははは。とにかくいって来よう」
艇夫の一人は出ていった。
あとで仲間の艇夫たちは、顔を見合わせ、
「ああはいったが、すこしは里心《さとごころ》がついているのじゃないかな。つまり、この噴行艇がこんど地球に戻るのは十五年後だから、昨夜生れたあの男の子供が、十五六歳にならなきゃ、わが児《こ》の手が握《にぎ》れないんだからなあ」
「うむ、まあ、そうだ。だが、そんな話はよそうや。こっちまでが、里心がつくからな」
十五年後だと、艇夫たちが話をしているところをみると、この噴行艇は、これからずいぶん長い行程をとびつづけるものらしい。
ふしぎな味噌汁《みそしる》
「どうだ、三郎。噴行艇に乗って、一ヶ月たったが、すこしは、気がおちついたか」
一人の艇夫が、煙草をくわえて、三郎の横に、腰をおろした。それは、三郎と同郷の、神戸《こうべ》生れの艇夫で、鳥原彦吉《とりはらひこきち》という男であった。彼は、やさしい男で、そして艇夫には似あわぬものしりだった。三郎は、彼を、ほんとうの兄のように思っていた。
「ええ、だいぶん、なれましたよ」
三郎は、缶詰の中から、青豆を
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