が大ぜいあつまっていた。卓子《テーブル》のうえには、高級艇員が立って皆を見下ろしている。
「もう、大たいあつまったようだな。では、宇宙服の着方をおしえる。まず、実物を見せるがこれが宇宙服だ」
下から、大きな深海潜水服みたいなものが、さし上げられた。説明役の高級艇員は、それを卓子のうえに抱《かか》え上げた。宇宙服は、架台《かだい》にかかっていた。自分の横に、その宇宙服をおいて、説明がはじまった。
「これが宇宙服だ。ちょっと見ると、潜水服のようでもあるが、また西洋の鎧《よろい》のようにも見える。これは全部軽合金で出来ていて、圧力に充分たえるようになっている。手足の間接のところや腰のところが、まるで蜂の腹のようになっているが、これは手足の関節や腰を曲げるのに都合がいいように作ってあるのだ」
銀びかりのする宇宙服は、見れば見るほど、ものすごいものだった。あんな大きなものを着て歩けるかと心配をするほどだった。
「……この下に、やはり軽合金と特殊ゴムとで出来た長靴をはき、宇宙服にぴっしゃり取付ける。これがその靴だ」
靴は、みかん箱のように四角ばって、そして大きい。
「また、頭にはこの大きな兜《かぶと》をかぶる、ちょっと見ると、潜水兜に似ているが、大きさはもっと大きくて上下に長い円筒形だ。兜の額のところから、こうして二本の鞭のようなものが生《は》えていて、釣竿《つりざお》のように、だらんと下っているが、昆虫の触角《しょっかく》と似ていて、月の世界で、われわれ同志が話をするのには、なくてはならない仕掛けだ」
妙な説明が始まった。三郎には、何のことだか、よくのみこめなかった。
「……みんな、この二本の触角をみて、ふしぎそうな顔をしているようだが、これがなかなか大切な物だぞ。つまり、月の世界には空気がないのだ。だから音というものがない。そうだろう。音は、空気の波である。空気がなければ、空気の波も起らない。だから、音がないのだ。すると、月の世界の上で、どんなにわめいても呼んでも、声はつたわらない。だから、話をするのに、音にかわる何物かを使わなければならない。そこでこの触角が役立つのであります」
なるほど、月の世界には、空気がないから、したがって、音が出ないし、もちろん音がつたわるわけもない。これは困ることであろう。三郎にも、それは分った。
「……で、この触角のはたらきであるが、
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