、背中に酸素のタンクを背負っている姿を考えると、ちょっとおかしい。
「おい、艇夫。もう外に、心配なことはないかねえ」
艇長は、からになったコーヒー茶碗を、三郎にかえしながら、たずねた。
「いきをすることが、うまく出来るなら、もう心配はありません」
三郎は、そう思っていたので、そのとおり返事をした。すると艇長はにやにや笑いだした。
「艇夫、お前は、月の世界へいってから、ずいぶん意外な思いをするにちがいない。今からたのしみにしておきなさい」
「なぜですか、艇長。意外なことというと、どんなことですか」
「まあ、今はいわないで置こう。とにかく、お前たちが月の上に安全に降りられるようにと、ちゃんとりっぱな宇宙服が用意してあるから、安心をしていい。それを着て、月の上を歩いてみるのだねえ。きっと目をまるくするにちがいない。まあ、後のおたのしみだ」
「そうですか。早くその宇宙服を着てみたいですね」
「そのうちに、宇宙服の着方を、だれかがおしえてくれるだろう」
艇長と三郎とが、そんな話をしているうちに、またまた艇長のところへ、報告がどんどんあつまってきた。機関部からも、機体部からも、航空部からも、どんどん報告がやってきて、艇長は、また前のような忙しさの中に入ってしまった。
「ふむ、ふむ。やっぱり無理か。よろしい、では、本艇を月に着陸させることにしよう」
機関部の報告によれば、このままでは、どうにもならぬということなので、艇長はついに決心をした。
「命令。本艇の針路《しんろ》を月に向けろ」
航空士は、直ちに舵《かじ》をひいて、噴行艇の針路をかえた。
艇長は、また叫んだ。
「命令。月に着陸の用意をせよ。――それから、本隊司令に対し、連絡をせよ」
いよいよ艇内は、総員の活動で、にわかにさわがしくなった。
宇宙服
「おーい。三郎君。早くこっちへ来い」
入口から、三郎を呼ぶ者があった。
三郎がその方へふりかえると、入口に鳥原青年の顔があった。
「鳥原さん。何の用で?」
「いよいよ月の世界へ下りることになったので、皆、むこうで宇宙服の着方をおそわっているのだ。君も早く来い」
「あ、宇宙服ですか、もう始まったんですね。じや、艇長にちょっとお許しを得ていくことにしましょう」
三郎は、艇長に申出て、許可をうけ、鳥原青年とともに、艇夫室へ急いだ。
艇夫室には、艇夫たち
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