まるで樽の中のような兵員室です。右も左も、足許を見ても天井を仰いでも、すぐ手の届きそうなところに大小のパイプが、まるで魚の腸《はらわた》を開いたように、あらゆる方向に匍《は》い並んでいます。
「第一不思議なのは本艦の方向だよ。或時は東南へ走っているかと思うと、或時は又真東へ艦首を向けている」
「そうだ。俺は昨夜《ゆうべ》、オリオン星座を見たが、こりゃひょっとすると、飛んでもない面白いところへ出るぞと思ったよ」
「面白いところへ出るって、どこかい。おい、いえよ」
「うふ。その面白いところというのはな」
「うん」
「それは……」
と、先をいおうとしたときに、室内に取付けてある伝声管が突然ヒューッと鳴り出しました。丁度その側に「猿飛佐助《さるとびさすけ》」を夢中で読んでいた三等兵曹が、あわてて立ち上ると、パイプを耳にあてて聞きました。何だか向うから怒鳴っている声が洩《も》れて聞えます。
「はいッ、判《わか》りましたッ」
パイプをかけて、一同の方に向いた兵曹は厳格な顔付で叫びました。
「兵員一同へ艦長から重大訓令がある。直《ただち》に発令所へ集合ッ!」
皆、手にしていたシャツも手紙も、素
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