鳴って、おたがいが航路から外《そ》れることのないように、警戒をしあっています。
 この五隻の○号潜水艦が、横須賀軍港を出たのは、桜の蕾《つぼみ》がほころびそうな昭和○年四月初めでありました。それからこっちへ、もう一月ちかい日数がたちました。その間、どこの軍港にも入らないし、島影らしいものも見かけなかったのでした。
 もっとも水面をこうやって航行するのは、きまって夜分《やぶん》だけです。昼間は必ず水中深く潜航を続けることになっていましたので、明るい水上の風景を見ることも出来ず、水兵たちはまるで水中の土竜《もぐら》といったような生活をつづけていたわけでした。
 とにかくこんなに永い間、どこにも寄らないで、一生懸命走っているということは、今までの演習では、あまり類のないことでした。
「どうも、本艦はどの辺を航海しているのか判らんねえ」
 第八潜水艦の兵員室で、シャツを繕《つくろ》っていた水兵の一人がいいました。
「もう二十五日もたつのに、どこの根拠地へも着かないんだからね」
 それにこたえた水兵が、手紙を書く手をちょっと休めて、あたりの戦友をグルッと見廻しました。グルッと見廻すといったって、
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