をつままれても判らぬような暗夜を、前進また前進です。海面は波立っているらしく、艦体がしきりにもまれます。
第八潜水艦の艦長清川大尉は、司令塔の上に儼然と立ちつづけています。
「通信兵!」と艦長は呼びました。
「はッ」
「まだ旗艦からの無線電信は入らぬかッ」
「まだであります」
「そうか」
人声も消えて、また元の、おっかぶさるような闇です。
司令塔の下からは、あえぐようにエンジンの音が聞えてきます。機関兵たちは休息もとらず、ひたすらエンジンを守っています。
「通信兵!」
とまた艦長が叫びました。
「はッ、ここにおります」
「まだ旗艦からの信号はないかッ」
「残念ながら、まだであります」
「そうか」
艦長はまた口を閉じました。軽い溜息をついて、二三歩狭い司令塔の中に歩《ほ》を移しました。
「艦長どの、報告」
通信兵の側に立っていた伝令兵が、突然叫びました。
「おお、そうか」
「旗艦からの報告です」
白い電信紙が、懐中電灯を持った艦長の手に渡りました。
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「本艦ハ唯今、×国ノ商船隊ト覚シキモノヨリ発シタル無線電信ヲ受信シタリ。ヨリテ方向ヲ探知スルニ東南東ナ
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