た。
「あのとおり方向舵が曲ってうごかなくなってしまったんだ。あれを直さないかぎり、本艇は海上に墜落のほかない!」
「なにを!」
ケレンコは、ゴリラのように歯をむいて、太刀川青年の方へちかづいた。
荒肝《あらぎも》をひしぐ
どこまでも、不運なクリパー号は、この暴風雨のために、方向舵までも、まげられてしまった。
艇にとっては、今や人も機械も何のやくにもたたない。ただ暴風雨のまにまに、どこまでも、ながされてゆく。
いつ突風がおこるかわからない。突風がおこって艇にたたきつけるようなことがあったら、おしまいである。下にはあれくるう波が、艇と人とをひとのみ[#「ひとのみ」に傍点]にしようと、白い牙をむいて待ちかまえているのだ。さすがのケレンコも、太刀川青年に、方向舵の曲ったことを知らされて、顔色をかえてしまった。
が、太刀川青年は、おちつきはらって言った。
「さあ、どうしますか、ケレンコさん。われわれはともかく、あなたがたは、ここで艇と一しょに、海中へおちて死ぬつもりですか」
ケレンコは、だまっていたが、その目は、あきらかにうろたえていた。
「どうしますか、ケレンコさん
前へ
次へ
全194ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング