室内に入ってきたのに、気づいた者はほとんどなかったようである。
「電灯をつけろ。ダン艇長。誰かに命令をつたえろ」
「はい。では発電室へいってみます」
 しめたと思ったダン艇長が、くらがりの中に体をうごかしたとたん、
「こら、この室を出ていっちゃならん。この室に、艇内電話機があるはずじゃないか」
 とケレンコのわれ鐘のような声。
「電話機はありますが、停電ですから、電話もだめじゃないかとおもいますので……」
「なんでもいいから、かけてみろ」
「はい。こうくらくては電話機のあるところがよくわかりません。懐中電灯でもあれば」
「大げさなことをいうな。じゃ、わがはいの懐中電灯を貸してやる」
 ケレンコは、ピストルをポケットにおしこみ、他のポケットをさぐって、懐中電灯をとりだした。
 それはただちにケレンコの手から、ダン艇長の手にわたされた。釦《ボタン》をおす。まぶしい光がさっと室内に流れた。
「ああ、ここにあった」
 艇長は、電灯を片手にもちながら、
「ああもしもし」
 と、電話をかけはじめた。
「おう、交換台か。おや、電話は通じるんだね。それはよかった。え、なに?――」
「こら、他の話をしち
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