、操縦員も艇長も、そしてケレンコも、めんくらって目をぱちくりとした。
「え、どうしてそんなことが――」
「いま窓から外を見たんです。方向舵がぴーんと曲ってしまって、今にも風にさらわれてゆきそうですよ」
太刀川時夫は、平気な口調でいった。
「あ、ほんとうだ。方向計の針が、ぐるぐるまわっています。これはたいへんだ」
「このままでは、本艇はおそろしい暴風雨の真中に吸いこまれてしまいますよ。まずスピードを下げて、風にさからわないように飛ぶことです。さっきからの操縦は、ありゃ無茶ですよ。飛行艇がこわれてしまう」
そういっているとき、どうしたわけか、操縦室の電灯が一時にぱっと消えてしまった。外は、夜のように暗い黒雲の渦だ。室内はくらくなった。ただその中に、蛍光色の計器の表だけがぴかりぴかりと光る。
「あ、たいへんなときに停電だ」
「こら、誰もうごくな。うごくとうつぞ」
委員長ケレンコも、あわて気味に一同をおどかした。
「電灯をつけなきゃいかんですが、困りましたね」
太刀川青年の、おちつきはらったこえが、くらがりの中からした。
そのさわぎのうちに入口から、小さい猿のような動物が、するすると
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