いリキーであった、よろよろと立ち上ると突然、
「やい」
と叫んでどすんと腰を下した。
「やい、よくも貴様は、おれの邪魔をしやがったな。よーし、今にみていろ、吠面《ほえづら》をかかしてやるからな」
いいながら又立ち上ろうとする。と、ケント老夫人が又たしなめた。リキーはしぶしぶ腰を下したが、いまいましそうにこちらを睨みながら、時々何事かつぶやいていた。
太刀川は、たいへんなお客と乗り合わせたものだと思った。
中国少年は、彼にたすけられて、すっかり安心したものか、すやすやと安らかな鼾《いびき》をかきはじめた。
怪しい透視力
密航少年事件が、曲りなりにもおさまったので、ダン艇長は、艇員たちをつれて、自室にひきあげた。
「どうだい皆。二人組の共産党員の心あたりはついたかね」
「はい、私の受持の部屋には、怪しい者は見当りませんでした」
「私の受持でも、駄目でした」
「そうか。じゃあ、皆、獲物なしというわけだね」
ダン艇長の顔には、深い憂《うれい》の皺《しわ》がうかんだ。その時、
「艇長」
とよびかけたのは、事務長だった。
「何だ」
「あの本社からの秘密無電に、誤りがある
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