もかまいません。あなたには御関係のないことです」
「なにを。こいつが!」
叫びざま、リキーが艇長におどりかかろうとした時、
「リキー、その子供をお放しよ」
それまで隅っこに風呂敷のような布をかぶって、だまっていたケント老夫人が、かすれ声でたしなめた。
「ううん。ちぇっ」
リキーは舌うちしながら、にわかに見世物の象のようにおとなしくなった。それでも、なにかぶつぶついいながら、小脇にかかえこんでいた中国少年を、床のうえにどすんと放りだした。
「あっ」といって、中国少年は、その場に倒れた。
太刀川時夫は、そうなるのを待っていたかのように、前へすすみ出て、中国少年をおこしてやった。
「もう泣かないでもいい、こっちへおいで」
「?」
中国少年は、びっくりしたような顔をして、太刀川青年を見あげた。
「さあ、僕のとなりの四十九番の席にかけなさい」
太刀川は、汚れきった中国少年に眉一つゆがめず、やさしくいたわって、座席へつかせてやった。
太刀川は、ダン艇長にたのみ、料金を払って中国少年をたすけてやったのであった。
これで密航者の問題は無事におさまったが、おさまらないのは、厄介な酔っぱら
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