が鳴りだした。乗客たちは、飛行艇の窓から外をのぞきながら、小蒸気の甲板にいる見送人と手をふり、ハンケチをふって、別れの挨拶をする。
「出航用意!」
艇長ダンの声が聞えた。
太刀川の席のすぐ向こうに、艇長室があるらしく、彼の命令する声がひびいてくる。しかしこれはよく調べてみると、艇長室と彼の席のすぐうしろの壁との間に空気ぬきのパイプが通じていて、それがあたかも伝声管のような役目をして、向こうの声がこっちへ伝わってくるものだとわかった。
発動機は、轟々《ごうごう》と音をたてて廻りだした。いよいよ太平洋を西から東へ、一万四千キロの横断飛行が始るのである。
「出航!」
号令とともに、飛行艇は海上をすべりだした。
スピードは、ぐんぐんあがる。
艇のあとにひいた夥《おびただ》しい泡が、はたとたち切れると、艇はすーっと浮きあがった。空中の旅が始ったのである。見下す海面は、ガラス板のように滑らかであった。
どこかで、無電をうっているらしい音が、しきりにする。
ふりかえると、いつの間にやら、香港一帯が箱庭の飛石のように小さくなった。発動機の振動が、微かに座席にひびいてくるぐらいで、全く快
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