さけんだ。
ところが三捕は、伏せをするどころか、衛兵の方をみて、げらげらと笑いだしたのである。
衛兵はびっくりして鉄砲をひいた。よく見ると、黄いろい顔をした妙な風体《ふうてい》の男が、長いひげをひっぱりながら、こっちをむいてあはははと笑うのである。
三浦は、気が変になったわけではない。例のクイクイの神様に、ちょっと早がわりをしただけのことである。神様になると、妙に気がおちつくのであった。
「待て、ポーリン」
という声とともに、入口に、どやどやと足音がきこえたが、いきなりとびこんできたのは、衛兵長であった。
クイクイの神は、すばやく両手をあげて、降参の意をしめした。
「生き残ったのは、こいつだけか」
と衛兵長は、いって、
「おい、ポーリン。しばっちまえ」
と、命令した。
三浦がしばられている間に、部下の衛兵たちは、ぞくぞくあつまってきた。
「こいつら、一たいどこからまぎれこんだのだろう。それとも、前から、この要塞の中にいたのかな。どうもふしぎだ」
衛兵長は、つぶやいて、
「とにかく司令官のところへ、こいつを引立てよう。さあ、歩け。この長ひげめ!」
三浦は、衛兵長に腰をけられて、いやいやながら歩きだしたが、その時、とつぜん、妙な節まわしで、唄をうたいだした。
「いまにイ、たすけるかーら、たんきを、だアすナ」
それは三浦のとくいな磯節だった。
太刀川は、それをきくと、三浦の方に向かって、自分の足を指さし、
「君をけとばした奴が、鍵をもっている!」
といった。日本語だから誰にも分かるはずがない。うまくいったら、鍵をとってくれというのだが、すこぶる無理な注文である。
三浦が、引立てられていったところは、司令官室であった。
しかし一同は、衝立《ついたて》のかげで、しばらく待っていなければならなかった。
というのは、奥で、しきりにケレンコ司令官のあらあらしい声が聞えているからであった。
「……日本攻略の日は、明朝にせまっているのに、貴様は、酒ばかりのんでいる。少しつつしみがたりないではないか」
その声は、三浦に聞えたが、ロシア語だからその意味を知ることはできなかった。もし太刀川が、これをきいたとしたら、どんなにおどろいたろう。一たいあの恐竜型潜水艦に勝てるような防禦兵器が、わが日本にあるのだろうか。
危機は、もう目と鼻との間にせまっているのだ。
「うーい。日本攻略は攻略、戦争は戦争。酒は酒ですぞ。リーロフは、戦闘にかけちゃ、ふん、お前さんたあ、第一この腕がちがうよ」
そういっている相手は、やっぱり副司令のリーロフ大佐だった。
「無礼なことをいうな。よし、ただ今かぎり、貴様の副司令の職を免ずる」
「なに、副司令の職を免ずる」
酔った勢いも手つだって、リーロフも負けていない。
とつぜん椅子がたおれ、靴ががたがたとなる音がきこえた。司令官ケレンコとリーロフ大佐とが、日本攻略を前に、大喧嘩をはじめたのだった。
鍵を掏《す》る神
クイクイの神様こと三浦須美吉を引きたててきた衛兵長は、司令官の前で、工合のわるいことになった。
ケレンコ司令官とリーロフ大佐が、扉の向こうでつかみあいを始めたからである。室内に入るに入れず、そうかといって、このままひきかえすわけにもいかない。
「えッへん」
衛兵長は、わざと大きな咳ばらいをした。
「ええ、司令官閣下、ただ今わが海底要塞に怪人物が三人、しのびこんでいるのを発見しましたぞ。私が引っとらえて、ここへつれてきましたが、ものすごい奴であります」
衛兵長じまんの、大声がケレンコの耳に入らないはずはなかった。
「おい、リーロフ。しずかにしろ」
司令官は、リーロフ大佐になぐられた頤《あご》を、いたそうにさすりながら、大佐に目くばせした。
(われわれ二人の格闘は一時休戦だぞ――)
「な、なにを、……」
リーロフ大佐は、床にたおれたまま歯をむきだして、どなった。たった今、ケレンコ司令官から、副司令の職をはぎとられたことが、大いに不平でならないのだ。
だが、喧嘩はとにかく一時おさまったらしいので、衛兵長は、室内へはいった。
「司令官閣下。この男です、監禁室にあてた倉庫の中から、とびだしてきた奴は」
そういって、クイクイの神様の背中を、どんと前についた。
「ほう、この髭《ひげ》もじゃか」と、ケレンコは目をみはって、
「ところで衛兵長、お前は、三人のあやしい男を発見したとかいったが、あとの二人はどうしたのか」
「はい、二人はその場で、鉄砲でうちたおしてあります。ご安心ください」
「おお、そうか」
と、司令官はうなずき、クイクイの神様の方にむいて、
「おい、髭もじゃ。貴様は、何者だ。又どうして、こんなところへはいりこんだのか」
クイクイの神様である三浦須美吉には
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