こと、実は日本人漁夫の三浦須美吉であった。
ダン艇長も、鉄鎖でつながれている太刀川を見て、
「おお、……」
と、いって、かけだそうとした。それを、酋長ロロと三浦須美吉が、無言でぐいとおしもどした。
この部屋の外には、衛兵がいるのだ。もしこれが知れたら、非常警笛が鳴りひびき、同時に衛兵たちがどやどやとなだれこんで来て、四人をうむをいわさず、銃殺してしまうだろう。
ダン艇長は、気がつくと、そーっと太刀川のそばに近づいて、
「太刀川さん。これは一たいどうしたのですか」
といって、時夫の手を握った。
「ありがとう。これにはわけがあるが、僕は、捕虜になってしまったんです。しかしあなたがたは、どうしてこんなところへ?」
するとダン艇長は、
「太刀川さん。これは、すばらしい探検記ですよ。だが、僕たちは、このまえ一度、あなたをみかけましたね」
「そうそう、海底の汽船が沈没していたところでしょう」
「そうです、あの時、僕はあなたを見つけたのですが、あまりのことにびっくりしたのです。実は、太刀川さん。僕はこの酋長ロロのすんでいるロップ島へながれついて、一命を助ったのです。酋長ロロは、なかなかりっぱなそして勇敢な人間です。そのロップ島からすこしはなれたところにカンナ島という石油が出る島がありますが、そのカンナ島の古井戸から、この海底城(ダン艇長は海底城という言葉をつかった)へ、秘密の通路があることを知って、僕たちをつれてきてくれたのです」
聞けば聞くほど、奇々怪々な話であった。
「その秘密通路というのは、一たい誰がつくったものですか」
太刀川は、そう問いかえさずにはいられなかった。
「いうまでもなくこの海底城をつくった人間がつくったのです。カンナ島に、かくれた石油坑があればこそ、この海底城に、電灯がついたり、ポンプがまわったりしているのです」
「なるほど」
太刀川は、その大がかりなのに、今さらのように感嘆した。
その時、クイクイの神様こと、三浦須美吉が、前へのりだしてきて、太刀川の腕をとった。
日本人同士
(こいつ、なにをするんだろう)
太刀川は、クイクイの神様が、指さきで、腕をこするので気味わるく思ったが、ふと、
(おや、なにか字を書いているようだぞ!)
気がついた。よく見ると、それは日本の片仮名だった。
「アナタハ、ニッポンジンカ。ワタクシモ、ニッポンジンダ」
「ほほう、……」
と、太刀川はおどろいて、クイクイの神を見なおした。
「僕は日本人で、太刀川時夫というんだ。君は誰だ」
「ああ、やっぱりあなたも日本人!」
クイクイの神様は、いきなり太刀川にすがりついた。
「うれしい。こんなところで日本人に会うなんて、まったく夢のようです。ダン艇長が、あなたのことタツコウとよぶので、フィリピン人かと思っていたんです。よかった。わたしも日本人、三浦須美吉という者です」
「え、三浦須美吉」
こんどは太刀川の方が、おどろいた。
「じゃ、君が三浦須美吉君か」
「そうです。あなたはどうしてわたしの名前を……」
「知っているとも、僕は、君が海中へ流した空缶の中の手紙によって、はるばる大海魔を探しに来たのだ。それにしても君はよく生きていたね」
二人の日本人は、手に手をとって、うれしなきだ。さっきからいぶかしそうに見ていたダン艇長と酋長ロロも、それと気がついて、ふしぎなめぐり合いにおどろいた。
太刀川は、今までのことを手みじかに話した上、このおそるべき海底要塞の日本攻略準備がなった以上、これを一刻も早く日本へ知らせなければならぬと語った。
「よく、おあかし下さいました。私も、死んだつもりで、祖国日本のために働きます」
三浦須美吉は、体をふるわせて、太刀川の前にちかったが、足もとの鉄の鎖に気がつくと、ダン艇長、酋長ロロに、
「早く」
というように目くばせして、鉄の鎖を、ぐいとひっぱった。鎖が、がちゃりとなった。
銃声
廊下にいた衛兵が、それに気がついた。
「おや」
と思ってのぞくと、この有様だからぴりぴりぴりと、警笛をならした。
酋長ロロは、腰をぬかし、三浦は、立ちすくんだ。ダン艇長は、腰におびていたピストルを手にとって、身がまえる。
とたんに、轟然たる銃声がひびいた。
「うーん」
と、さけんだのは、ダン艇長だった。彼の体は、後にのけぞって、どすんと床にころがった。衛兵が、真先にねらい撃ったのである。
「ひゃー」
と、酋長ロロは、こんどは腰がはいったのか、ぴーんととびあがった。
そこをまた、だーんと一発!
ぎゃっという妙な悲鳴、酋長ロロも、そこへたおれてしまった。そのつぎは、三浦須美吉と、太刀川時夫だ。
衛兵は、銃口を三浦の方へむけた。
「あっ、あぶない。三浦君、そこへ伏せ」
太刀川は、
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