をくるくるまわっていたが、ケレンコの号令が下ったその刹那《せつな》、海魔の形をした例の屈曲式の砲塔が海面をつきやぶってむくむくとおどりあがった。とたんに、その先のはしからぱっとあやしい光が出た。その光が、駆逐艦の檣《マスト》にふりかかると、アンテナはぱちぱちと火花をはなって、甲板上に焼けおちる。
その後につづく商船のアンテナも、全く同じ運命におちいった。
甲板上に人影が、ありありと見えたが、彼等は、この怪物のだしぬけの出現に、どうしてよいのかわからず、ただうろうろするばかりだった。
アンテナをやききった怪力線は、こんどは目標をかえて、駆逐艦の吃水部をねらった。
ぴちぴちぱっぱっと、目もくらむような焔が、駆逐艦の腹からもえあがった。と見る間もなく、海水はにわかにあわだちはじめた。艦腹に穴があいて、そこから海水がはいりこんでゆくのだろう。艦体はがくりとかたむいた。
どどーん。がーん。
はげしい爆発が起った。艦内から、ものすごい焔と煙がとびだして、艦全体を包んでしまった。やがてその間から、舳を上にしてずぶずぶと沈んでゆく悲壮な光景が見られた。さっきから怪力線砲が、しきりに甲板の上をなめるようにしていたが、ついに弾薬庫を焼きぬいて大爆発を起したためだった。
「うむ、うまくいった。駆逐艦であろうが、なんであろうが、怪力線にかかっちゃ、まるでおもちゃの軍艦も同様じゃないか」
ケレンコは、腹をゆすぶって笑った。
リーロフの行方
つぎのイギリス商船が、ほとんど一瞬のうちに、波間に姿を消したことは、改めていうまでもないであろう。
しかも、怪力線砲は、しつこくも、波間にただよう人たちまでなめまわしたのである。全世界にのろいをなげる共産党員は、こうしたことを平気でやっているのだ。
「射撃中止!」
と号令をかけて、司令席上のケレンコ委員長は、なにがおかしいのか、からからと笑いつづける。
だが、ケレンコはその笑を、ふととめた。そしてむずかしい顔になった。
「あ、リーロフ。あいつは一体どうしたのだろう。さっきからずいぶんになるが、まだ姿を見せないじゃないか」
自分の片腕とたのむリーロフのことが心配になったのである。
「おい誰か、会議室へ行って、リーロフの様子を見てこい」
ケレンコはどなったが、すぐそのあとで、
「いや、やっぱりわしが行こう。そこにいる衛兵五名も、手のすいている者もみんなついてこい」
といって、ケレンコはすたすたと司令席を下り、出口から出ていった。その後から、十人ばかりの部下がしたがった。
会議室の前には、一人の水兵が銃をかかえてあっちへいったりこっちへきたり、番をしていた。
ケレンコは、番兵にいった。
「おい、リーロフはどうした」
「私は少しも知りません」
番兵は、あわてて捧銃《ささげつつ》の敬礼をしながら、こたえた。
「ふーむ、おかしいな」
と小首をかしげたが、考えなおして会議室の扉《ドア》を指さし、
「どうだ、この中の先生は、その後おとなしくしているか」
「はい、はじめはたいへん静かでしたが、さっきからごとごとあばれまわっています」
その時、扉の内側になにか大きなものをぶっつけたらしいはげしい音がした。
「ほう、やっとるな」といったが、ケレンコの眉がぴくりとうごいた。
「おい、へんじゃないか。中には誰と誰とが入っているのか」
「さあ、誰と誰とが入っているのか、私は知りません。さっきこの部屋の前を私が通りかかると、中から一等水兵がでてきて、(急に胸がわるくなったから、向こうへいってくる。その間、お前ちょっと代りにここの番をしていてくれ)といって、いってしまったんです。それから私が立っているんですが、どうしたのか、まだ帰ってきません」
「それはおかしい。一等水兵は誰か」
「はき気があるとかいって、顔を手でおさえていたので、よくは見えませんでした。小柄の人でしたが……」
「いよいよ腑におちない話だ。よし、扉をあけてみろ。おい、みんな射撃のかまえ。中からとびだして反抗すれば、かまわず射て」
扉には、鍵がつきこんだままになっていた。それをまわすと、錠はがちゃりとはずれた。
扉は開かれた。
とたんに、どたんところがりでた男! それを見てケレンコは、あっとおどろいた。
「おお、リーロフじゃないか。おいリーロフ、これは一体どうしたんだ」
だがリーロフはくるしそうにうめきながら、床のうえをころげまるばかりだった。それも道理、リーロフは、誰にやられたのか、猿ぐつわをかまされ、そしてうしろ手にしばられ、両足もぐるぐるまきにされている。
「どうしたのか、これは……」
とケレンコがおどろいてもう一度そういった時、室内からもう一人の男がよろめき出た。この男もリーロフ同様、しばられているが、はだか同様の
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