の席にいる副司令のガルスキーだった。彼のあごも、ぶるぶるとふるえている。
「君までがそんなことで、どうするのだ、戦艦陸奥が来ようと、航空母艦のサラトガが来ようと、わが海底要塞の威力の前には一たまりもないはずだ」
といいながら、ケレンコは動物園の猿のように、鉄柵をにぎってゆすぶった。が、ふと前の壁をみて急に気がついたらしく、
「なあんだ、ガルスキー、まだ、潜望テレビジョンがつけてないじゃないか」
「いや、閣下がおいでになってから、うつしだそうと思っていたのです。では、ただ今」
ガルスキーが、あわてながら、スイッチをひねる。と、前の壁に、映画のようなものがうつりだした。よくみると、波のあらい海上を二隻の艦影がまっしぐらに走っている。これこそ潜望テレビジョンで海上の有様をうつしたものだった。
二隻の艦は、いずれもこちらに近づいているらしく、艦影はぐんぐん大きくなってくるのであった、ケレンコは、待ちきれないらしく、やがて、あらあらしい声で、
「おい、もっと大きく出してみろ。どこの軍艦だか、これではさっぱりわからないじゃないか」
ガルスキーは、いわれるままに倍率をあげるハンドルをくるくるとまわした。
艦影は、みるみる大きくなって、やがてスクリーン一ぱいにひきのばされた。
「あ、先頭のはアメリカの駆逐艦。そして後のは、イギリスの商船じゃないか。ははあ、わかった。サウス・クリパー艇の変事をききつけて、やってきたものにちがいない。それにしても、いやに正確に、わが海底要塞を目ざしているではないか。これはゆだんがならない」
委員長ケレンコの眉がぴくりとうごいた。
司令室内の彼の部下は、いいあわせたようにケレンコをみつめている。
その時、入口から、影のように一人の水兵がはいりこんできたのを誰も気がつかなかった。
洋上の一大惨劇
ケレンコは、スクリーンのうえにうつる二隻の艦影をじっとにらみつけていたが、なにごとか決心がついたものとみえ、副司令ガルスキーの方へ顔を向け、
「おい、ガルスキー。怪力線砲の射撃用意!」
「え、怪力線砲の射撃? あれを二隻ともやってしまうのですか」
副司令は、顔色をかえて、ききかえした。
「なにをいっている。君は、わしの命令どおりにやればよいのだ」
「ですが、委員長。アメリカの駆逐艦はともかく、後のは、わが同盟国のイギリスの商船ですよ。それを撃沈する法はないと思います」
副司令は、いつに似合わず、はっきりといった。
「だまれ!」ケレンコは怒った。
「軍艦であろうと同盟国の船であろうと、わが海底要塞をうかがおうとするものに対しては、容赦はないのだ。つまらぬ同情をして、せっかくこれまで莫大な費用と苦心をはらってつくったこの海底要塞のことがばれようものなら、日本攻略という我々の重大使命はどうなるのだ。なんでもかまわん、やってしまえ」
「ケレンコ委員長。さしでがましいですが、イギリスの商船のことは、もう一度考えなおしてくださらないですか」
副司令の顔には、なぜか必死の色が浮かんでいた。
「くどい。太平洋委員長兼海底要塞司令官たるわしの命令を、君は三度もこばんだね。よろしい、おい、ガルスキー。司令官の名において、今日、ただ今かぎり、副司令の職を免ずる。直ちに自室へ引取って、追って沙汰のあるまで待て」
「え、副司令を免ずる。そ、それはあまりです。もし、ケレンコ閣下、それだけは」
「くどい。おいそこの衛兵。ガルスキーを向こうへつれてゆけ。そしてリーロフを呼べ」
ガルスキーは、とうとう腕力のつよい衛兵のために、むりやりにつれ去られた。
潜水将校リーロフは、どうしたのか、なかなかやってこない。
「あいつは、なにをぐずぐずしているのだろう。
太刀川をあの部屋にとじこめ見張をつけて、すぐ来るようにいっておいたのに、ばかに手間どるではないか」
ケレンコは、じりじりしだした。その時、
「委員長、駆逐艦が針路をかえました」
副司令にかわって、哨戒兵が叫んだ。
「なに、針路をかえた。おい、テレビジョンをまわせ。駆逐艦のすすむ方向へだ」
そういっているうちに、例の駆逐艦は、大きな円をえがいてぐるぐるまわりだした。それはちょうど海底要塞のまわりなのだ。
「あ、駆逐艦のやつ、なにかこっちの様子に感づいたな。もう一刻も猶予ならん。怪力線砲、射撃用意。目標の第一は、アンテナだ。第二の目標は、吃水線だ」
ケレンコは、断乎としていいはなった。
「射撃用意よろしい」
怪力線砲分隊よりの報告。高声電話の声だ。
「よし、撃て!」
ついにおそるべき号令が発せられた。
怪力線砲発射のすさまじい模様は、潜望テレビジョンで目の前のスクリーンに、ありありとうつし出されて行くのである。
駆逐艦と商船との姿が何かをさがすように海面
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