んなに切りやすいのであろうか。
解剖医は、そこで切った皮膚と筋肉とを左右に開いた。これは洋服の釦《ボタン》を外して両方へ展《ひろ》げるのと、なんの異るところもない。洋服の場合は、その下から襯衣が見えてくる代りに、この屍体の場合には、下からは筋肉や内臓が飛びだしてくるというだけの相違である。
もちろん内部は真赤だ。
しかし僕はそんなに愕きはしなかった。内部は、魚の腹を開いたのと同じようなものである。また兎の解剖でみたのと、大同小異であった。ただこれは、人間の腹の中だという所属的の違いだけのことで、愕くほどのことはなかった。しかし内臓はなんとなく内部から外方へプリプリと飛び出してきたような感じがした。
医師はそのときメスを上の方へ戻して、胸のところを丁寧に開いた。そして左右の肋骨《ろっこつ》の上を、メスでもってスーッスーッと二本の筋を引いた。それから手でもって、胸骨を、まるで蓋をとるような塩梅《あんばい》で外した。するとなかからは、肺臓と心臓とが顔を出した。後から考えてみると、このとき胸腔と腹腔との中は真赤だったのだ。しかし実際このとき僕は、すこしも赤いということを感じなかった。赤
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